118.決して、届かない

足と腕とに剣を突き刺しても、今度は口が勝手に輝術を詠唱しそうになる。馬鹿。やめて。必死に唇を噛んでこらえていれば、リチャードとの勝負が決したようだ。
それを視界の端で確認したところで急にふっと力が抜けて、さっきまで胸にズシンと居座っていた重苦しい気持ち……ソフィを殺したくてたまらないという気持ちが嘘みたいに消えるのがわかった。
水の中からようやく出れたみたいに、一気に呼吸が楽になる。ほっとしてアスベル達を見れば、リチャードが地面を苦しそうに転げ回っているのが見えた。

「グオ……ナゼだ……ココまで……ココまできて……」
「こうなってはもう助かるまい。トドメを刺すのがせめてもの情けだろう」
「待ってください!」

マリクさんを止めて、アスベルが一歩前に出る。
彼はまっすぐにリチャードを見ていて、そして聞こえる、と呟いた。

「待ってください、リチャード……リチャードの声が聞こえる」
「……ベル……スベル」
「リチャード? リチャード!?」
「……クルシイ……タスケテクレ……アスベル……」
「ああ、今なんとかしてやる」
「シニタクナイ……キエタクナイ……コロサナイデ……ボクラハ……トモダチ……ジャナイカ……」

……わたしを消さないで。殺さないで。死にたくない。殺さないと。消さないと。消えたくない。
さっきわたしを突き動かしていた衝動を思い出して、痛む手足を見る。
突き刺さった剣はとても無機質で気持ち悪い。ソフィを殺そうと動いた自分が信じられない。
でも、そうしないと……そうしないと、消えてしまうんだ。
苦しそうなリチャードの言葉に、ソフィがゆっくりと彼に近付いた。
目の前に座り込んだ彼女を、彼は心底憎むように睨む。

「マタ……キサマカ……! プロトス1!」
「プロトス1って、英知の蔵で出て来た……」
「違うよ……わたしは……ソフィだよ」

ソフィは“プロトス1”と呼ばれ、一瞬苦しそうに胸を押さえたが、すぐに頭を振ると手をリチャードに向かって伸ばした。
ソフィの手を繋ごう、と伸ばされた手はどこか震えていて、懇願するような色を瞳に称えている。

「リチャード……友情の誓い、しよう。そしたら……きっと」
「ソフィ……」

そしたらきっと、もう戦ったりする必要なんかなくなる。
友達だもん。仲直りしよう。
そう優しく笑ったソフィに、リチャードも弱々しくもはっきりと笑う。
そして、彼も手を伸ばした。
……チャキ、と。ソフィの目の前に剣を突き付けるために。

「……消えろ」

一言、そう呟いて、辺りが白く光る。
リチャードの剣から出た衝撃波が、ソフィの小さな体を簡単に吹き飛ばすのが見えた。
それは呆気ない光景。
それは、それは、かつての彼らの笑顔を引き裂くような、光景。
わたしには関係ない、でもわたしにとっても愛しい記憶が引き裂かれるのを見て、わたしは思わず叫んだ。

「っソフィーーー!!」