119.走って、走って

「くくく……あはははははは!」

リチャードの笑い声が響く中、同じように吹き飛ばされたみんながソフィに駆け寄っていく。
柱を折る程の勢いで門に叩きつけられたソフィはピクリともしない。

「ソフィ! ソフィ! しっかりしろ! 目を開けてくれ、ソフィー!」

わたしは、今度は“ソフィを助けたい”と思って、自分の手足に突き刺した剣を引き抜こうと力を込めた。
剣を抜いた瞬間に溢れた血に一瞬目眩がしたが、そんな事は気にしていられない。それにどうせすぐに塞がるだろう。そのまま足に突き刺したのも引き抜いて、痛むそれらを引きずりながら彼らに近付こうとして……止めた。
急に、怖くなったのだ。本当に? わたし、ここで彼女に駆け寄って、大丈夫なの?
全身から血の気が引くのを感じる。体が動かない。血が肌を伝うのを感じながら、ただ茫然と、己の力だけで宙に浮かんだリチャードを見る。

「とうとうここまで来た……! もはや誰も我を止められぬ!」

どばっとリチャードが纏っていた赤黒いオーラが広がり、まるで生き物のように辺りを飲み込んでいった。
蠢く先端は太く白い形状に変わり、まるで繭のようにこの島を包もうとしている。

「みんな逃げろ! とにかく走れ! このままだと巻き込まれるぞ!」
「ソフィ! ソフィ!」
「兄さん急げ!」
「シオリ、あなたも早く!」

シェリアに腕を引かれて、でもわたしはそこから動けないでいた。
……またソフィを殺そうとしてしまうんじゃないか、今度はシェリアやパスカルやヒューバートくんやマリクさん……アスベルにまで、刃を向けるんじゃないか。
そう思ったら、素直にシェリアに従う事は出来なかった。

「で、でも、わたし……」
「いいから! 早く行こう!」

ぐいぐいと後ろからパスカルに押されて、無理やりに走り出す。
走る。
走る。
後ろから触手のように迫ってくるそれから逃れるために。
ソフィを早く助けるために。

「アーハッハッハッ!」

孤島に響いたリチャードの声を残して、わたし達はフェンデルへと戻る船に飛び乗った。