宿にソフィを運んでしばらくすれば、時折苦しそうに身をよじっていた彼女もようやく落ち着いたらしい。
いつもと変わらない寝顔に安心しながら、わたしはソフィの手を握った。
……今のソフィはやはり透明で消えかかっているように見えて怖いのだ。本当に消えてしまいそうで。
「やっと少し落ち着いたみたい。よく眠っているわ」
「ソフィ……」
「アスベル……言いにくい事なんだけど……ソフィは……あたし達人間とは違う存在なんじゃないかな」
「パスカル……!」
言いにくそうに少しもじもじしながら言ったパスカルに、アスベルは声をあげた。
しかし、否定する事は出来ない。パスカルもそれをわかっていて、口早に話を続けた。
「今の様子だって人間じゃ考えられない反応だよ、だから……」
「ソフィが人間だろうとなかろうと、苦しんでいるのは事実だ。諦めようって話なら俺は聞かない」
「ううん、むしろその逆だよ。ねぇ、みんなあたしが英知の蔵で話した事覚えてる? シオリとソフィは聞いてない部分の事なんだけど」
「私達がいる所とは別にフォドラという所があって、そこからプロトス1が来たって話?」
「プロトス1は大輝石を狙っていたラムダという存在を阻止したとも言っていたな」
「プロトス1……リチャードがソフィに言ってた?」
確か、ソフィに向かってそう言っていたよねと確認すれば、みんなが頷く。
「そう。もしリチャードの言う通りソフィがプロトス1だとしたら、可能性が一つあるの。ソフィをフォドラへ連れて行くんだよ。術も薬も効かないとなると、残る手段はそれしかないかも。もちろん確証はないよ。リチャードが本当の事を言ったとは限らないしね。大体あの記録にあった出来事って、気が遠くなるくらい昔の事のはずだし。必ずよくなる保証はないけど、フォドラを目指すのも可能性の一つじゃないかな」
フォドラ、もう一つの違う場所。
プロトス1とラムダ。
もしそれがあるとして、どうやって行けばいいんだろうか。
話を聞く限り、今もその場所があるとも確認出来ていないみたいだし。だが、アスベルは引く気はないらしい。そこに希望があるのなら、ソフィを助けられるのかもしれないなら、あきらめるという選択肢は、彼の中になかった。
「そのフォドラへはどうやって行けばいいんだ? 俺はソフィをこのまま放っておく事は出来ない。今度は俺が、なんとしてもソフィを救わないと。だから頼む、なんとしてもソフィを治してやりたいんだ」
「俺を、ではなく、俺達を、ではありませんか? 恐らくここにいる全員が同じ考えだと思いますよ……あなたも、そうですよね」
ヒューバートくんの視線がこっちに向いて思わずビクリと肩を揺らす。
……その目に、当然ながら責めるような色を見たからだ。彼はいつものように眼鏡を押し上げて、わたしを真っ向から見つめる。
ああ、だめ。やめて。今、聞かないで。
そう言いたいけれど、それはヒューバートくんの言葉より先に音になってくれない。……ごめんね。君にいつも、そうやって、疑わせて。
「そもそも、何故ソフィを攻撃したんですか?」
「……わからない」
「わからないとは? 直接被害は無かったみたいでしたが、それでもし……」
「そんなの、そんなのわたしが知りたいよ!」
ヒューバートくんの声をかき消すように、思わず大声で叫んでしまう。
いけないとは思ったが、うまく止める事が出来ない。
孤島から、いやそれ以前からわたしの中でぐるぐると渦巻いていた不安だとか疑問やら焦りやらが一気に沸騰してしまったようにぼこぼこと音を立ててこみ上げて来る。
「どうしてわたしがソフィを攻撃しなきゃならなかったのさ! なんで体が勝手に動くの? なんでわたしの言う事を聞いてくれないのさ、わたしの体じゃないみたいにソフィを攻撃して! なんでソフィを殺したいだなんて思ったのさ! どうして、なんでっ……なんでわたしが、ソフィを……」
はあ、と息を吐いて、自分が立ち上がってまで叫んだ事、みんなが唖然としてわたしを見ている事に気付いた。
急に気持ちが冷めるのを感じて、わたしはみんなに顔が見えないように俯いて、足早に扉へと向かった。
「……わたしちょっと、頭冷やしてくる」
「シオリ、私も……」
「ごめんシェリア。今は、一人にして」