雨の音がする。
ざあざあざあざあ、わたしを打ちつける音がする。
冷たい冷たい、怖い。
わたし、まだ、ここに……ああ、やだ。やだよ。泣かないで。
約束するから、わたしが……
───約束って、なんだっけ。
外に出る途中でポアソンちゃんらしき姿と見知らぬおばあ様の姿を見たけれど、挨拶する気にもなれずわたしは気付かないふりをして外に出た。
ザウェートは相変わらず雪が降っている。
雪は、嫌いじゃない。迷惑なこともたくさんあるけれど、綺麗だし、見ている分には好きな光景ではある。でも如何せん今は気分が沈んでいるため、ひたすらに寒々しくて暗い光景にしか見えない。
一つ、ため息を吐いて、そこにうずくまる。
……さっきのはよくなかった。あれでは八つ当たりとそう変わらない。
ヒューバートくんには後で謝ろうと、なんとなく雪をかき集めながら考える。集まって、山になっていく雪は柔らかい。それだけ。つまんないな。なんでわたし、こんなところでこんなこと、しているんだろう。
自分も相当まいっているらしい。さっきも普段ならもう少しうまく流せる筈だったのに、出来なかった。
……自分もわかんないのだ。どうしてあんな事したのか。
だから何も言えない、わたしは何も悪くないはずだったのに、出来なかった。
「ソフィを……殺したくなんて……ないのに」
呟いて、ぐしゃりと雪を握り潰した。
ザウェートの雪は冷たい。素肌で触れば痛みに似た感触が残る。痛いな。でも、さっき自分に突き立てた剣の傷はもうどこにも残っていない。この世界に来てから異常なほど回復力が高まった体。便利だなあ、としか思っていなかったけれど、もしかして、これには何か代償みたいなのがあって、そのせいでさっき、わたしはソフィに攻撃したのだろうか。
あの時わたしがあんなことをしなければ、きっと、もう少し、事態はいい方向に向かったかもしれないのに。どうしてかな。何が、あったんだろうな。
もしかして忘れている事に、答えがあるのかな。ここに来たきっかけに、きっと答えがあるのかな。……あってほしい。
「……大学に行って、授業受けて、帰って……帰って、その後、に」
雨が、降っていた。
雨が降っていたのだ、確か。
雨が冷たかった。傘、さしていたと思うんだけど。雨がすごく冷たくて、痛かったことは、なんとなく覚えている。どうして雨の感触なんて覚えているんだろう。どうしてわたしは傘を、手放したのだろう。
……そこで止まってしまう記憶に、わたしはまたぐしゃりと、雪を握り潰した。