17.崖を、目指して

「シオリ、アスベルは?」

わたしが兵器を見に前に出ている間、怪我人の治療に行っていたシェリアに聞かれて、わたしは素直に敵の目の前へと走って行ったアスベルさんの方へ視線を向ける。
きっと、それだけでもなんとなく彼のしたいことはわかっただろう。表情を強張らせたシェリアに、わたしは彼の作戦を簡単に説明した。

「裏山の花畑の崖からアレを落とすって、敵の目をひきつけに行った」
「アスベル一人で……?」

心配、なんだろうな、やっぱり。
シェリアはアスベルさんに対し突き放すような行動をしているけれど、きっと彼のことが嫌いなわけではない、はずだ。七年前、わたしの知らない彼らの思い出が、きっと何か邪魔をしているのだ。
だから、きっと自分がどうすべきか悩んでいるのだろう。素直に心配することも、追いかけることもできずにいる。……なんて、わたしの推測でしかないけれど。でも、彼女が彼を嫌っていないということだけは、とっても自信があったので。わたしは一つ、大きく息を吸った。

「……シェリア、わたし、すっごく弱いんだ」
「え?」
「でも、アスベルさんのこと、助けたいって思う。だから……わたしのことを、助けてほしいんだ」

わたしは弱い。さっきだって満足に戦えなかった。それでも助けたい。支えたい。それはマリクさんに頼まれたというのもあるし、純粋にそうしたいという気持ちもある。
でも、何もできない。できないから……“わたしを助けて”ほしいと、そう言ってシェリアの目を見る。
アスベルさんのところに、素直に駆けつけることができないなら、それでもいい。ただ代わりに、わたしを言い訳にして、わたしを助けると思って、アスベルさんのところに行ってほしい。
そんな、全然上手じゃない遠回しな誘い文句に、シェリアはちゃんと気付いてくれたらしい。少し驚いたようにわたしを見た後、やがて決意したように強く笑ってくれた。

「……そうね。私一人でも無理だわ。だから一緒に行きましょう、シオリ」
「うん!」

頷きあって、フェンデル軍に名乗り出ているアスベルさんのもとへ走る。
彼のところについたときには、ちょうどフェンデル軍達がアスベルさんに照準を合わせながら前進してくるところだった。
崖があるという花畑へ誘導するために走り出そうとする彼の隣に、わたしたちは無言で立つ。
アスベルさんはチラとわたし達を交互に見た。最終的に敵から目をそらすわけにはいかないと、敵に視線が定まったようだけど。そのまま、わたし達に少し強い口調で話しかけた。

「シェリア、シオリ。みんなと一緒に行け。ここは俺一人でなんとかする」
「私は大丈夫」
「大丈夫とは言い切れないけど、わたしだって手伝えるよ」

わたしとシェリアの返事が合図だとでも言うように、フェンデル軍達が動き出す。
ガタガタと小刻みに揺れるそれらが自分達に向かっているのを確認して、アスベルさんは声を張り上げた。

「……!」
「来たか! 二人とも花畑まで走るぞ!」