走る、走る、走る。
坂を駆け降りて、裏山の入り口を通って。裏山にいた魔物達の横を通り過ぎて、崖があるという花畑に向かってひたすらに走っていく。
フェンデル軍の兵器は、さすがに機体が重たいせいか車ほど足は速くない。ガタガタと大きく揺れながら進む速度は、一番足の遅いわたしでもなんとか射程圏外をキープできる程度だ。
それでも、まったく追い付かれないわけではない。油断すれば攻撃が飛んでくるし、じりじりと距離が詰まっていく。
ようやっと、花畑にたどり着いた時には、もう三人とも射程範囲内だった。
「追い付かれる!」
「あと少しだ!」
崖に辿り着いて、わたしたちは兵器を十分に引きつけてから横に大きく転がるようにして逃げる。
すぐに射撃体勢に移られなくてよかった。一番接近してきていた兵器は、その勢いのまま上手い具合に崖にハマって落ちてくれた。ずるりと崖から滑り落ちていく機体に、思わず歓声をあげた。
「やった!」
「シオリ、後ろ!」
「ぅひゃあっ!」
しかし、兵器は一つではない。
次の瞬間には、後ろから別の兵器がやってくるのだ。むしろ一体落としたことで、わたしたちの狙いもわかったのだろう。もう崖に近づいてくることはなく、むしろ崖を背後にしたわたしたちが囲まれるのに、そう時間はいらなかった。
「しまった……」
「そんな……」
追い詰められて、逃げ場所を無くしたところでついに大砲が放たれた。
ここは花畑だというのに。争いの前に美しい自然など関係ない。一つ大砲がと撃たれるたびに地面が抉られ、焼けた花びらが舞う。
その光景に恐怖で体が震えるが、追い詰められると人間は結構なんでも出来るらしい。なんとかギリギリで直撃を避けることができている自分に、わたしは心底そう思った。
「きゃあっ!」
「シェリア!」
すぐ横をかすったらしいシェリアの悲鳴が聞こえて、わたしとアスベルさんはすぐに彼女へと駆け寄った。
気休めでしか無い。けれど何もしないではいられない。二本の剣を抜いて、逆手で持った剣でシェリアを守るようにして兵器を睨む。
カタカタと震えてしまう腕は非常に頼りない。
けれど、けれど。逃げるわけにも、いかない。
「落ち着け……落ち着けわたし! 大丈夫、大丈夫だ……!」
「シオリ……」
怖い。
怖い怖い恐い怖い怖い恐いコワイ怖いこわい怖い怖い怖いこわい怖い怖いコワイ怖いこわい怖い怖い怖い怖いこわい死にたくない。
体中が震える。必死に歯を食いしばっても涙が出る。
でも倒れているシェリアの前から退きたくなくて、アスベルさんが彼女を抱き起している間だけでも頑張りたくて。そう願っても恐怖で何もできなくて、結局体が固まってしまう。
ぎゅうと目を瞑る。すぐに瞑るのが怖くなってまた開いて、目の前に迫る砲塔を直視できず、結局半開きにしてみる。
「くそ……また俺は……」
悔しそうに唇を噛み締めるアスベルさんの声がする。
けれどそちらに視線を向ける余裕だってない。
ああ、わたしたち、
今。ものすごく、無力だ。
「また俺は何も守れないで終わるのか?」
照準がわたしたちを捉えて赤く光る。
死が近付いて来る。
嫌だ、死にたくない。
“わたしはまだ、何もしていないんだ。”
まだ、わたしは。
「そんなのは……嫌だ!」
アスベルさんが叫んだその時、アスベルさんとシェリアの体が強く光るのが見えた。
強く、強く。優しい、けれどとても心強い光。
その光は一度二人をそれぞれ包んでから、兵器達の中心……わたし達の目の前に集まって、そしてまるで天を貫くように立ち昇る。
光る。
光る。
光る。
光る。
どきどきと心臓の音がうるさい。
それなのに光によって吹き飛ばされた兵器の崩れる音は一切聞こえない。
どきどき。
どきどき。
どくんどくん。
光の柱が、昇る。