126.もう、ひとつ

ストラタの港でセイブル・イゾレに大統領が来ているという話を聞き、オイゲン総統の親書を渡す為にわたし達はそこへ向かった。
そこでついでとばかりにアンマルチア族の遺産が眠るという研究塔の地下へ入る許可を貰い、研究員と大統領を連れて中へと入る。
そこはアンマルチアの里の英知の蔵とそっくりな空間で、一目でここが目的地だとわかった。

「これがアンマルチア族の残した記録がある、もう一つの蔵か?」
「地下にあった装置とほぼ同じ型みたいだね。これなら一度見てるし、なんとかなるよ」

ポンポンと大分慣れた手付きで装置を起動させる。
もう四回目になるその光景に驚きなどといったものは感じない。パスカルは驚きの声を上げた大統領と研究員には反応を返さず、フォドラの資料を呼び出した。
しばらくそれを眺めて、感嘆の声を漏らす。

「これ、相当強引なやり方だよ。本当に大丈夫かってくらいの。まずフォドラへ行くには間にある空の海を渡る専用の乗り物が必要みたい。記録にはシャトルってあるね。でもそのままだと空は飛べても空の海は越えられないんだって」
「空の海を……越える?」
「あたし達の世界を覆ってる大きな膜みたいな物だってこと」
「空に海があるなんて信じられない……」
「……あ……」

ふと、アスベルとマリクさんに出会う直前の事を思い出した。
確かあの時、“空から落ちる”という感覚を味わう前に水の中にいるような感覚を味わった。
その後の状況を理解するためにすっかり忘れていたが、きっとわたしはその“空の海”の中にいたのだろう。そうして、そこから落ちてきた。そう思えばもう一つの世界だというフォドラに行くために空の海を越えるというのも納得だ。いっそのこと、懐かしさすら感じる。

「その海を越える方法は考案されていたのか?」
「アンマルチア族のご先祖様はシャトルが通れる道を無理やり作ろうとしたみたいだね。シャトルが発進すると同時に地上から海に向かって熱線を打ち出すんだってさ。熱線が海に当たって一瞬だけ海を切り裂いたところに、シャトルを通すつもりだったみたい」
「うっわ強引……それって可能なの?」

思わず訪ねれば、あたしもそう思うとパスカルも苦笑して返す。
ポンポンと装置を使って実際にシュミレートしてるみたいだが……はて、わたしにはイマイチ理解できない。
真上ではなく遠心力を……と言っているが、やっぱりわからなかった。

「ちょっと直せばなんとかなるかも。絶対大丈夫とまではいかないけど」
「試してみよう。例えそれがどれほど低い可能性であっても」
「実際にシャトルはどこに?」
「アスベル達の故郷のすぐ近くだよ。ラントの北にある海辺の洞窟に入り口があるらしいよ」

海辺の洞窟、と思わず繰り返せば、シェリアが「おじいちゃんを助けた場所の近くよ」と教えてくれた。
わたしが初めて、まあ役に立たないなんてどころじゃなかったけど戦闘を経験した場所か、と思い描いて一人頷く。
空の海といい、ここに来て再びスタート地点に戻って来たような気がする。
それはまるで、わたしに初めから考え直させるチャンスみたいでどこか気味が悪い。
ヒューバートくんの出発宣言を聞きながら、わたしはこれで少しは自分も変われたらいいと、どこかぼんやり思った。