128.少し、ずつ

少し開けた、小さな湖のような場所に、それはあった。
不自然ではない程度に盛り上がった崖に触れると、それはガタリと音を立てて開く。
中に入ると雰囲気はガラスと変わって、一気に遺跡の中にいるような感覚になった。そこには飛行機……というにはちょっと豪華すぎるような機体がある。

「こんな所にこんな場所があったなんて……」
「これがフォドラへ行くための乗り物ですか? こんな物が空を飛ぶなんて、にわかには信じがたいですね」

昔の人が初めて飛行機を見たような感想だなぁと思って、まあ科学より魔法が発達したこの世界では同じようなものかと一人納得する。
パスカルはたたっとシャトルの近くに設置されているパネルに近付くとそれをいじりだした。

「動かせそうか?」
「ちょっと待ってて」

ポンポンっと軽く音が響いて、ブゥンと辺りにモニターがいくつも表示される。
そろそろ慣れてきたが、相変わらずの謎の技術だ。

「動いたわ!」
「まだまだこれからだよ。整備も必要だしね」

ぶつぶつと注意書きやら説明やらをしてくれるが、相変わらずわからない。
とにかく、ストラタとフェンデルに熱線を発射する装置があり、その二つが同時に発射して空の海を……ということらしい。

「そんな離れた場所の装置、同時に動かせるの?」
「ここから纏めて制御できるはずだよ。熱射角度の調整もね」

そう得意げに言った直後、ブー、と、説明の途中で音が鳴った。
どうやら何か操作ミスのようで、パスカルは困ったように体を揺らす。
が、次の瞬間にはばんばんと操作を叩き始め、更にブーブーブーとけたたましく音を鳴らした。
これ、大丈夫なのだろうか。

「ぱ、パスカル?」
「何が起こったんです?」
「ストラタにある方の施設はうまくいったんだけど、もう一つの方がダメだね」
「フェンデルにある方か」
「ここで見る限り反応はないね。直接行って見てみないとどうにもならないかも。あとは……」

何事も無かったように操作を止めてアスベルに向き直る。
それは先程の音とはまた関係ない問題みたいだ。

「これは事前の準備がうまくいって出発出来るようになってからの話なんだけど、あたし達がシャトルに乗った後、ここに残って制御する人が必要なんだよね」
「それは……誰にでも出来る事なのか?」
「さすがにそれは。技術的な知識も必要だしね。素人にはちょっと無理かな、お姉ちゃんに頼むのが本当は一番いいんだけどね……あたしが頼んでも無理かな……まあこの件に関しては上手いやり方を考えるよ」
「……?」

ぞわりと、急に鳥肌がたった。
パスカルがいつもの調子で話しているのを聞いて……ではない。
全く違う所。わたし呼んでいるような、むしろ“来るな”と言っているような変な胸騒ぎ。
怖いのにどこか愛しいような感覚に、わたしは無意識に自分の腕を抱き締めた。

「これ、前にも、どこかで……?」
「シオリ?」
「へっ?」
「何ぼーっとしてるんですか。早くフェンデルに戻りますよ」
「あ、うん、今行くよ」

みんなに呼ばれて、これはきっと気のせいだ、水に濡れて寒くなったんだ……と言い聞かせるが、それでも鳥肌というか胸騒ぎは止まない。
じくりじくりと新しい傷が痛むような感覚を振り切って、わたしはみんなの後に続いた。