133.扉を、開いて

「親父……」

階段の踊場にある絵画の前で、アスベルは小さく呟いて立ち止まった。
彼が見てるのはラント家の絵画だ。寡黙そうなお父さん……アストンさんに、今より少し若いケリーさん。恥ずかしそうにはにかむ幼いヒューバートくんに緊張で固まってる幼いアスベル。
七年よりも少し前に描かれたという家族の絵画の前で、アスベルはその足を止めた。それにあわせてヒューバートくんも足を止めて、眼鏡をぐっと押し上げる。

「何を考えているんですか?」
「親父の事だ。認めてくれない親父に反発してこの家を出た。あの頃の俺は騎士になり強くなれば全てを守れると思っていた。けれど……それだけではダメだった。親父の跡を継いで領主という立場にはなったが、それは立場を継いだにすぎない。親父は何を思い領主として生き、死んでいったのかって」
「お父様も同じでしたよ」

不意にそう声がかかる。
見れば、ケリーさんが階段を登って来る所だった。
ケリーさんは優しげな瞳を細めて絵画の中の自分の夫を見つめる。

「お父様はいつも悩み迷いながら、皆のために何をどうすべきか考えていました。けれど皆に不安を与えぬよう、表向きは強くあろうと努力していたのです。離れて暮らすあなた達の事を、お父様は誰よりも心配していました。あなた達の為に良かれと思いしてきた事が、あなた達を苦しめたのではないかとも……」
「あの親父がそんな風に考えていたなんて……」
「お父様は不器用な方でしたから……あなた達への思いをうまく言葉や態度で表せずにいつも悩んでいました」

親子とはそういうものだ。
いつだって互いを思ってるのに、いつだって互いにそれを誤解してる。一番近くにいるから、わかった気になるけれど。実際にはどこまでも他人だから、全部理解するなんてできない。そのことがわからなくて、すれ違ってばかり。迷ってばかりだ。
なんて。大人になって、親にはまだなれていないけれど、なんとなく、こういう風に愛してくれたのかなって思ったり、思わなかったり、考える余裕ができて自分の家族のことを考えることも増えたからようやく言えるようになったことだけど……ううん。家族だけじゃない。誰に対してもそうだ。わたし達はいつだって誰にだって、理解しきれなくて。でも理解したいと思って、悩んで、生きている。

「今はまだ、迷う事もあるでしょう。しかし、大事なのは答えに辿り着こうとする心……お父様が、よくそうおっしゃっていました」

ケリーさんはそう微笑んで、そうして自分の息子達を優しく見つめた。
焦らず、自分の決めた道を信じなさいと。

「お父様の血を継いだあなた達なら、迷いの中から答えを見つけられるでしょう。私もあなた達二人を応援しています。自分の信じた道を進みなさい。お父様が生きていらっしゃったら、きっと同じように言ったと思います」
「母さん……ありがとうございます」