「うわ、綺麗……」
シェリアを追って少し脇にそれた場所に入ると、そこは幻想的、という言葉がよく似合うような場所だった。
フェンデルの氷山洞穴にもあった、氷みたいに白い木。
それが一本だけ立っていて、青白い光を放っているのだ。
周りの水に反射した光が更にここだけを違う世界にしてしまっているようで、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
「シオリ? どうしてここに?」
「シェリアが行くのが見えたから。凄いねぇこれ」
「光霊蟲の住処よ。こんなに綺麗なのも珍しいけど」
わたしに気付いたシェリアに近付けば、シェリアは困ったように優しく笑った。
仕方ないなぁ、っていう顔。こういう表情は好きだ。シェリアが優しいって事がよくわかるし。
二人並んでしばらく無言で光霊蟲の住処を眺めていると、シェリアは少し寂しそうにうつむいた。
「……ねぇシオリ。私、アスベルが好きよ」
急にそう告白されて、ツキリと胸が痛んだ。
知ってた。知ってはいたけど、実際本人の口から聞くと、覚悟とか諦めとかそんなのは意味がなくなる。急に、どうしようって、思ってしまう。
もしかしたら自分は思っている以上にアスベルのことが好きなのかも、と思った時からずっと……ずっと、その言葉を言われた時に笑って応援しようって決めていたのに。覚悟していたはずなのに。
やっぱり、ちょっと苦しい。そっか、苦しいって思っちゃうくらい、わたし、アスベルのこと、好き、だったのか。
「でもね、それと同じかそれ以上に……シオリの事も大好きなの」
聞きたくないな、と意識を逸らそうとして、シェリアの言葉に驚く。
思わず彼女を見ると、シェリアは優しい笑顔でわたしを見ていた。
「だから私、二人に幸せになってほしいって思うの。それは私の幸せでもあるから」
「……どうして急にそんなこと言うの?」
「だって、シオリもアスベルが好きでしょう?」
かあっと顔が熱くなるのがわかった。
自分でも恥ずかしいくらいの反応だ。
わたしはそんなにわかりやすかっただろうかと思わず顔に手を当てると、クスクスと笑われる。
「二人の事をずっと見てるんだからわかるわよ。だから、ねぇシオリ。あなたが何に悩んで、何を不安にしているのか、私にはわからないけど……でも、好きでいる事は決して悪い事じゃないのよ」
だから二人が一緒になってくれたら、私はもっと幸せになれるわ。
そう続けたシェリアはなんだかとても綺麗で、わたしはいつもの調子で声を出す事は出来なかった。
また無言になって、光霊蟲の住処を二人で眺める。
目に痛いほどの美しさが、とても眩しくてたまらない。
わたしの世界ではありえないそこに、シェリアの声だけが響く。
「ソフィがいた世界ってどんな所なのかしらね」
「……ソフィがいた世界だもん、きっと可愛い子がいっぱい……じゃなくて、綺麗な場所だよ。花畑があって、そこではみんなが優しくいられるような、そんなイメージがあるな」
「確かに、きっと花畑はあるでしょうね」
耳に心地良い笑い声。
今、わたしがいる場所。
「……好きでいても……いいのかな」
気付いたら、呟いていた。
「わたし、きっと……きっといつか、みんなとお別れしちゃうと思う。けど、好きでいても……いいのかな」
いつか、わたしはいなくなる。
いつか、わたしはこの世界から消える。
だってわたしは、この世界の人間じゃない。どうしてここにいるのかもわからない。そのことを考えるのを先延ばしにしていたら、ああしてソフィのことを傷つけることになった。だから、考えなくちゃいけなくて、でもきっと、その答えが分かった時、わたし、自分の世界に帰らないといけないって、思う。
それでも……それでも、好きでいても、いいのだろうか。
みんなの事を、アスベルの事を、好きでいても。
「……もちろんよ、シオリ」
優しく、わたしを見て、ほほ笑んでくれるシェリアが、とてもきれいで、愛しくて。
そっと目を閉じてから、わたしも自然と笑った。