148.千年間の、眠り

「エフィネア……それがフォドラにおけるぼくらの世界の呼称ですか」
「なるほど、私は長い事眠りについていたようですね」
「長いってどれくらい?」
「……千年ほどになるでしょうか」
「千年!?」

千年も眠るとかもう人間じゃないぞ。いや、コールドスリープなら大丈夫、なのかな? あまりそっち方面の知識に明るくないので、眠り姫っていいよね、とか、美人ヒューマノイドは守備範囲内です、という言葉しか出てこない。
もちろん、そんなことこの場面で言ったら怒られそうなので何も言わないけれど。

「この世界の混乱が収まるまでと思っていたのですが……こんなに時が経っていたなんて」
「あなたがフォドラの方なら、ぜひお伺いしたい事があります。この子をご存知ありませんか?」

そう言って、アスベルは視線でソフィを指示する。
エメロードさんは床に布をひいて寝かせてある彼女に近付いて、驚いたように声をあげた。

「プロトス1ではありませんか。どうやら壊れているようですね。あなた方はエフィネアからこれを運んできたのですか?」
「壊れた、って……」

そんな物みたいな言い方、と声を上げようとして、エメロードさんと合った視線に思わずアスベルの後ろに隠れる。
反射的にやってしまった行動に首を傾げていれば、エメロードさんは特に気にせず説明を始めてくれた。

「もしやあなた方は、これがなんなのかご存知ないのではありませんか? このプロトス1は人間ではありません。私達フォドラの研究員が戦闘用に開発した人造ヒューマノイドなのです」

その言葉に、思わず息を飲む。
つまりソフィはロボット、という事なのだと彼女は言っているのだ。普通にご飯を食べたり寝たりしていたソフィが、人間ではないのだと。
薄々感づいていたとはいえ……やはりそれは、事実として受け止めるには不自然な感じがした。
だから……だから、アスベルの言葉は、嬉しかった。

「どのような存在であろうと、俺達にとってソフィがソフィであることに変わりはない。エメロードさん。俺達はソフィを治す為にフォドラにやってきました。ソフィを治療する事は可能ですか?」

真っ直ぐに問いかける言葉は、純粋にソフィを想う気持ちだけで構成されている。
それがたまらなく心地よくて嬉しい。
エメロードさんはソフィの様子を調べて、そうですね……と言葉を紡いだ。

「プロトス1には自動修復機能が備わっているのですが、それが上手く働いていないようですね。……プロトス1を修復するにはヒューマノイドの研究施設に行く必要があります。しかし……あそこは私が休眠する以前から危険な場所でした。今はもっと酷い状況になっているでしょう。あなた方の生命が危険に晒されるかもしれません。プロトス1の状態はあまり良くありません……それに装置が今も動くか定かではありません。仮に障害を乗り越えたとしても、プロトス1は元通りにならないかもしれません」
「そんな……」
「それでもあなた方は、プロトス1のために」
「エメロードさん」

話を遮って、わたしは真っ直ぐに彼女を見る。
何故か体は強張っていたけど、それでもどうしても言いたかったから。

「そんな長い前置きはいりません。危険だとかそんなの、フォドラに来る前からとっくに覚悟してるんです。プロトス1だとかそんなのだって、ソフィであることに変わりない。わたし達は、何がなんでもソフィを助けたいんです」

エメロードさんはわたしをじっと見る。
わたしもエメロードさんを見る。
そして彼女は「そうですか」と呟いて、頷いてみせた。

「そこまで覚悟が固いならばもう何も申しません。装置は私しか動かせませんから私もついていきます」
「ありがとうございます!」