150.コーネルの、研究所

研究所は長い時間を経て魔物の巣にでもなったのか、多くの魔物が徘徊していた。
その中を通って下へと降りて行き、わたしはふとある部屋の機械に足を止める。どこかで見たことがあるのだ。
しばらく眺めて、「あ」と声を漏らした。

「この機械……ソフィの幻が映ったやつにそっくりなんだ」
「研究対象の記録映像が残されている装置です」

わたしの声に反応して、エメロードさんはぱちぽちと装置を動かし始める。
どうやら見せてくれるらしい。パスカルはその様子をひょいと眺めては、そこに書いてある文字を口にした。

「ラ……ムダ? また出てきたよこの言葉」
「一体そのラムダというのはなんなんだ?」

首を傾げるわたし達に、エメロードさんは指を止める。
ゆっくりとその言葉を噛み砕いて、遥か昔に思いを馳せるような目をした。
……あ、前にみんながしたのと同じような、目。

「ラムダ……その名は私達にとって悪夢の代名詞です」
「悪夢……? どういうことですか?」
「元々ラムダというのは星の核を研究する過程で偶然発見された生命体でした。ここの所長だったコーネル博士が研究していたのですが、それが悪夢の始まりでした。ラムダの恐ろしい点は色々とありますが、体組織から魔物を生み出せるのもそのひとつです。フォドラはその魔物のせいで大混乱に陥り、こうして滅びてしまったようなものです」

ヴゥンと低い音を立てて、装置に繭のような物が浮かび上がる。
白く、ところどころに目のような物を持った楕円形の繭。
それはつい、最近も見たものだ。あの世界の中心の孤島で、リチャードが作り上げた繭に、そっくりだ。

「この繭は……!」
「ぼく達の世界のあの島にできた物と非常によく似ています」
「フォドラを危機に陥れた後、ラムダはあなた方の世界であるエフィネアへ逃亡しました。私達は対ラムダ用戦闘ヒューマノイドを開発し、エフィネアへ送り込みました。それがあなた方がソフィと呼ぶプロトス1の正体です。ですがプロトス1はラムダ根絶に失敗したとの報告が同行した仲間から寄せられました。私達は仲間とも協議し、消息不明のラムダを封じるためにエフィネア全体に封印を施しました。それから長い年月が経ち、今日こうしてあなた方がエフィネアからやって来たのです」
「ソフィはラムダという存在と戦う為にエフィネアへ来たのか……あの繭を作ったのはラムダということか?」
「でもそうだとするとおかしな事になるわ。だって、あれはリチャード陛下が……」
「見た目はリチャードにそっくりだったけど、ラムダが化けてるってこと?」
「リチャードがラムダな筈はない! 俺はリチャードをよく知っている。魔物なんかじゃ……ない!」

色んな考えが浮かぶ中でアスベルはそう強く叫んだ。
絶対に信じているという、宣言を。
……そうだね、とみんなが言いたかった。
だがあくまで考察の域を出ない事もわかっていたからすぐに言葉にする事も出来ないでいる。
わたしもすぐには言えなかった。絶対に違うって、思ってるのに。
その時、床に寝かせていたソフィが苦しそうに声を漏らした。
わたし達は慌てて彼女に駆け寄り、その手を握ってやる。

「ソフィの様子がおかしいわ!」
「……先を急ぎましょう」

頷いて歩き出す。
だが歩き出そうとして、わたしはまた足を止めた。
今度はそれに、同じように後ろを歩いていたエメロードさんしか気付かない。
わたしの目の前の部屋の隅。
そこには積み木が転がっていた。
どこか懐かしいような、愛しさを感じるような、子供の積み木。

「積み木……?」
「それはコーネルが研究対象の為に用意したものです」
「ふぅん……?」

どうにも煮え切らない思いを抱えながら、わたしも歩き出した。