162.愛したのは、わたし

さて、ホーリィボトルを使って真っ直ぐ魔物を避けながら研究所まで戻ったのはいいが、わたしはどうすればいいのだろう。
正直何も考えずにここに来ると言ってしまったのだ。ここに来れば、何かがわかるんじゃないかって、根拠もなくそう思ってここまで来ただけで。具体的にどこでどうすればいいのかは、何もわからないままここに来た。
ううん、とりあえずラムダとコーネルさんについて何か無いか探してみよう。操作出来るかは知らないけど。

「……あ」

一人で調査できるかなと思っていたけれど、よかったというか、予想通りというか。廊下の先には“わたし”がいた。
あのソフィを治した後に見た幼いわたし。彼女はわたしをじっと見ると、やがて踵を返して走り出した。

「ついて来いって事で、いいのかな……」

肩をすくめて彼女を追いかける。
きっと、彼女を追いかけた先にわたしが探しているものがある。前回はそれを知ることが怖くて追いかける気になんてなれなかったけれど……今は、知りたい。わたしがここにいる理由が。
……ラムダの体組織を持っている、自分の知らない自分のことが、ちゃんと知りたい。

彼女を追いかけていけば、やがて大きな水溜まりのある部屋へとたどり着いた。
どこかからか溢れた水が床に溜まっているようで、歩く度にパチャンと音を立てる。
最奥部へ向かう道から少し逸れた場所にあったこの部屋で、幼いわたしは相変わらずわたしを見た。何も言わず、ただただ見つめる。

「……いや、なんのイベントも無いの?」

てっきり何かイベントが起こる気でいたから拍子抜けだ。
幼いわたしちゃんも黙っているだけで何も話してくれないし、かといってこの部屋に探索するような場所はなさそうだし……わたしのカンは当てにならないなとため息をついて、くるりと扉に向かう。

「なんの収穫も無いんじゃ、みんなに余計怒られっかなー……」
『わたしが受け入れてあげる』

そこで初めて、彼女が言葉を紡いだ。
はっきりと聞こえた声に振り返れば、彼女は真っ直ぐにわたしを見つめている。どこか微笑むような表情を浮かべながら、パチャンパチャンと水溜まりに波紋を広げて、わたしに触れようと手を伸ばしてきた。

『だってわたしはわたしだもん。だからわたしが愛してあげる。それならもう怖くないよ。愛さなくていいよ。逃げていいんだよ』
「え、なにそれ、別に……」
『どうして?』

首を傾げる彼女はまさに幼いそれで。
にっこりと笑うそれが、何故か怖かった。

『だって、わたしに愛されたいから“ここにいるんでしょ?”』