164.星の光は、まだ

『泣かないで』

優しく優しく、声が落ちてくる。
わたしが笑う。
わたしは笑う。
幸せそうに笑う。笑う。笑う。

『ここには色んな人がいる。みんなわたしを好きだと言ってくれる。それはとても素敵な事だよ。本来なら有り得ない奇跡なんだよ』
「……て……」
『だからいいじゃない。約束さえ果たそうと思っていれば、わたしはずーっとみんなの傍にいられるんだよ』
「止めて!」

いつの間にか床に座り込んでいたわたしはそう耳を塞いだ。
水の感覚も無い。何も感じない。わたしの声だけが響く。

「好き、だよ。好きなの。ちゃんと本当に好き。でも、でもわたしは……わたしは、本当は、……っ」

みんなのことが好きなのは本当。昔からいろんな人のことが好きだった。
でもそれは、本当に心から世界が好きだとか、そういうことじゃない。好きだって言えば、みんなが優しくしてくれるからだ。好意を向ければ、基本的にみんな好意を返してくれる。わたしはわたしが生きられるように振る舞っていただけ。
いつだって怖くて仕方なかった。嫌われたら、拒まれたら、生きていけない気がしたから。それだけでわたしがこの世界にいる意味がなくなってしまうと思ったから。昔からずっと、怖かったから。好きだった。
この世界にきてからもそう。いつ死んじゃうんだろうって怖くて仕方なかったから、みんなが好きって言い聞かせて。言い聞かせて。もし死んじゃっても、好きな人に殺されたおきれいな物語になればいいやって思って、だから。
だから、わたし、

シオリ

なのにみんな本当に綺麗で優しくて暖かいから。どんどんどんどんわからなくなって、いっそずっと一緒になんて思ってしまって、ああ嫌だ入ってこないで手を引かないで。好きにならないで嫌いだと言ってわたしなんか大嫌いだっていらないって言ってよ。
だってこのままじゃ本当に、本当に好きになってしまう。わたしは傷つける事しか出来ないのに。手放しがたくなってしまう。

「呼ばないで、笑わないで、わたしなんか見ないで……」

……わたしがシオリを守って、シオリがわたしを守る

ごめんねソフィ、その笑顔はわたしには眩しすぎたの。

……友達になるなら敬語とか他人行儀は止しましょう? シオリ

ごめんねシェリア、初めて友達になれたのに、わたしは君の事も心から信じてたわけじゃなかった。

……シオリ一人は不安だから、あたしも行くから散策してみようよ

ごめんねパスカル、わたしは一人でいたがるくせに、一人じゃダメみたいです。

……シオリ、人の意見や諦めを逃げ道にするな

すみませんマリクさん、わたしはどうしようもなく臆病で、“誰かを好きでいること”で逃げていたんです。

……わかりましたよ……その……シオリ姉さん

ごめんなさいヒューバートくん、わたしはやっぱり、そんな優しくも甘くもない、ただの人間です。

……シオリさんも、友達になってはくれないかい? きっと、“いい理解者”になれる

ごめんねリチャード、わたしはその言葉をきちんと理解出来てなかった。気付かなかった。

……大丈夫だ。
シオリは、絶対に俺が守る。だから大丈夫だ


……会いたい。

どうしてお前はそうやって無茶をするんだ!
頼むから……素直に守られてくれ。心配、させないでくれ……
言ってくれたら支えてやれるのにって。
多分、言ってくれない事が一番嫌だったんだ。俺は……思ってるよりずっと、シオリが好きで、力になりたくて……


はたはた、雫が垂れる。
記憶が零れる。
全部全部どうでもいい。
わたしがここにいる理由とかわたしがどれだけ最低とかわたしが異世界の人だとかそんなの全部どうでもいいから。
みんなに会いたい。
みんなと一緒にいたい。

……アスベルに、会いたい。