168.星が、忘れた日

我ながら、簡潔すぎる、と、思った。
簡潔すぎるというか、あっさりというか。詳しいことを省略して中途半端に他人事で。本当に真剣に話しているのかと自分でも思うくらいにさっさとそう言っては黙ったわたしに、当然みんなは戸惑いの表情を見せる。
それはそうだ。急に違う世界から来ましたとか、その理由が死んだからとか。何を言っているんだ、の要素しかない。

「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか?」
「そのままの意味です」

事実、わたしの簡潔すぎる説明にヒューバートくんが戸惑いの声を上げる。何度も眼鏡の位置を調節しているあたり、そうとう動揺しているのだろう。
まあ当然だな。自分の事だからつい軽く喋ってしまった。

「違う世界、は、今実際に私たちも違う世界にいるからわかるけれど、死んじゃってるって……全然実感が湧かないわ」
「……なるほどな。だから初めて会った時、空から落ちて来たのか。てっきり木登りでもしていたのかと思ったのだが……」
「マリクさんもあっさりしてますよね。話続けるんですか」

うっかりマリクさんの言葉が懐かしい、なんて思っていたけれど、ふざけるのはここまでにした方がいいだろう。
説明は苦手だけど頑張らなくちゃ。わたしはキュッと気を引き締めた。

「わたしがいたのはフォドラとエフィネア、どっちとも全く関係ない世界で……敢えて名付けるなら“地球”という世界。だから、あまりこの世界の詳しいことは知らなかったんだけど……そこからどうしてこっちに来たのか全く思い出せなかったから、今まで黙っていたんだ。ごめんね」
「はえ〜、なるほどね。いろいろ変わってるな〜って思ってたけど、全然違う世界の人なら納得だねえ」
「でも、どうしてそれがラムダの話に……」
「ほら、大怪我をしたりしませんでしたかって、エメロードさんも言ってたでしょ。全然覚えてなかったけど……さっき思い出した。わたし、元の世界で事故にあっちゃってさ。大怪我して、たぶんそのまま死んじゃったんだけど……たぶん、そのあたりに何かあったんだと思う」

この詳しい経緯は曖昧なんだ、と謝れば、シェリアは眉を潜めた。
しまった。これは、心配させてしまった顔だ。死んでしまった、というわたしを、たぶん心配している。
みんなはそういう人だ。優しい、人達だから。

「そう、だったの……」
「ええ、と、だから……わたしの事、嫌いになっていいからね! 言っちゃえばゾンビって事だし、軽蔑したって全然構わな」

何故だか怖くなって、わたしは卑怯にも「嫌っていい」と言ってしまう。そんなことやったら、みんなは「そんなことない」って言うに決まってるのに。
わかってて、そう言った。そんなことないよって、ちゃんと好きよって、あなたのままでいいよって。きっと、とっても優しい言葉を言ってくれることを期待して、しまった。

「シオリ」

ああほら、アスベルの真剣な声がする。
ずるいな。ああ、ずるい。なんて卑怯者。
だからわたしは、わたしのこと、本当はすごく嫌いなんだ。嫌いなわたしのことなんて誰も好きになってくれるはずがないのに。それでもわたしはみんなが好きって言って、ごまかして生きようとしている。
ごめん。だからきっと、あの幼いわたしは、そんなこと全部忘れて放り投げて、自分だけを大事にして愛して生きようって……きっと、そのためにラムダのところに行こうって、ラムダを守るべきだって、言おうとしたんだろうな。
あれはわたしだもん。言いたいこと、ちゃんとわかるよ。
だからごめんねアスベル、ごめん……

「俺は、シオリが好きだ」

……ん、んん?

「…………………………ん?」

予想通り、では、あった、んだけど。
ものすごく真剣な声で、聞きたいけれど聞くはずではない言葉を聞いたような気がして、急に何も考えられなくなる。
ちょっと待て。今なんて……え? す、好き?
瞬間的に顔が熱くなるのを感じるが、目の前のアスベルは全く動じる様子もなくわたしを見る。そのまましっかりと言葉を紡ぎ出したアスベルに、わたしはおおいに戸惑った。

「確かに異世界からとかもう死んだとかは驚いたけど……でも、それでもシオリはシオリだ。ずっと一緒に旅をした。それは変わらない」
「あ、ああ、そっちね、そうね。ええ。今更嫌いになんてなれないわ」
「確かに今更ですね。あなたが変人だという事に理由がついただけです」
「ヒューバートくんひどくないか?」
「だが、確かにシオリは一人ずっと違う雰囲気だったしな」
「だから大丈夫だよ〜、あたし達がシオリを好きって気持ちは変わらないって!」

シャトルの修理をしながらパスカルまでもがそう言葉を発してくる。
それは予想よりずっと優しい言葉で。ずっとずっと嬉しくて……ずるいけれど、本当に、うれしくて。
わたしはなんだか泣きそうになるのを必死に噛み締めて、ふにゃりと笑った。

「み……みんな、もうわたしと結婚しようか……」