178.あたたかい、光

「シオリは一体どうしたんだ?」
「アスベルくんには関係ない」
「アスベル“くん”って……」

ラントの裏山に向かう途中でも、わたしは律儀に“呼び捨てしない宣言”を実行していた。我ながら実に大人気ないとは思うけれど、別に生活にもこれからの目的にも支障はないのでいいでしょう。
あの後みんなでソフィを犠牲にする事無く、かつラムダを次に確実にリチャードから引き離して倒すという目的は変わらないと全員で再確認をした。
その為にどうするべきかと話し合った結果、とにかく今できる最善の手として、ラムダの精神干渉を受けずに戦うための準備をしよう、ということで裏山の花畑に向かっている。
どうやら裏山の花畑は、非常に珍しい原素の状態が保たれているらしい。各国にある大輝石のせいで、大気中に漂う原素の属性は各国で偏りが生じてしまうのは当然であるというのに、この裏山には珍しい事に全ての原素が集まるらしいのだ。一年中花が咲いているのもそれが原因であると、ソフィは語った。

「なんかよくわからないが、その呼び方はあまり嬉しくない」

そこで最後の準備を……ということだけど。やっぱり移動中は暇なので、このようにまったく関係ない話が続いていた。

「なんでさ」
「それは、その……シオリに呼び捨てで呼ばれるのが好きだからだ」

さらっと言われた言葉に思わずグッとつまる。アスベルはわたしと違って素でそういう事を言うから困る。
それでも嬉しくなってしまうから、これが惚れた弱味かと自分を叩きたく思っていれば、にやにやとこちらを見るマリクさんとパスカルに気付いた。
途端に恥ずかしくなってくる。おかしいな、こんなキャラじゃなかったのに。

「〜っ! ほら! 花畑! 着いたね!」
「あ、ああ、それで呼び方……」
「ソフィちゃん、どうすれば……」
「ソフィちゃんじゃないよ」
「……ソフィ。どうすればいいのかな」

こいつらは……と諦めて、ソフィをいつもどおり呼び捨てで呼べば、彼女は嬉しそうに頷いた。
ああ可愛い。どうにも弱いなぁ。もう反抗期おしまいでいいや。
わたし達は彼女の指示通り、ソフィを囲んで円になるようにして立った。

「これから、ここの原素をわたしの中に取り入れる。それからそれをみんなに……わける。そうすれば、ラムダの干渉を受けず進めるようになる。これならシオリにだって、そんなに負担にならないはずだから」
「ソフィ……ありがとう」

わたしの事まで考えてもらってたのか……と感動している間にソフィはみんなを一人一人しっかりと見て、それから原素を取り込み始めた。
ソフィの体が仄かに光って、それからそれに呼応するようにわたし達の体も同じように光り出す。
光と共に何かに優しく包まれて、守られるような感覚。
幼い頃、両親に抱き締めて貰ったような安心感みたいなのが、胸の中に染み渡ってきた。

「あ……」
「なんだろう……すご〜く温かいよ」
「まるで太陽の光に包まれているかのようだ……
「ああ……」
「ソフィ……」

みんなもどこかぼんやりとそう言って……それから数秒とたたずにそれは終わった。

「……終わった。これでもう大丈夫」
「ソフィはオレ達にラムダとの最後の戦いに挑む力を与えてくれたのだな。オレ達も全力を尽くそう。二度とソフィが自分だけを犠牲にするなどと考えないように」
「そうだね。こうなったらソフィの出る幕がないくらい大活躍しちゃおうか」
「ソフィ、約束だ。自分だけでなんとかしようとするな。最後まで俺達は一緒だ」
「そうだよソフィ。そもそも最初にわたしと約束したっしょ? わたしがソフィを守ってソフィがわたしを守る。そのためには一緒にいなくちゃ」

改めてそう言葉を交わす。
それでもまだどこか迷った風だったソフィにアスベルはそっと手を差し伸べて。
そうしてソフィは、やっといつもどおりに笑ってその手をとった。

「……うん」

明日に備えてもう寝よう。
明日は、次は。
絶対にリチャードを助けるんだから。