明日に備えて……とか言うと逆に寝付けなくなるのがお約束というわけで。
わたしは見事に目が冴えてしまった。
眠くなってから泊まる事になっているシェリアの家に行こうと思っていたのだが、どうにも眠れそうにない。
仕方無く誰かと会話しようと……思ったらみんなも同じなのか約一名を除いてどこかへ行ってしまっているようだ。
というわけで。ちょっと、仕方なく。わたしは今、ヒューバートくんとケリーさんと一緒にテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
「……なんかすみません。せっかくの親子水入らずなのに」
「気にしないでシオリさん。それなら前も言ったけれど、アスベルかヒューバートのどちらかを貰ってくれれば私達も親子になるのですから」
「それなら兄さんを幸せにしてくださいねシオリ姉さん」
「うん、二人とも親子ですね!」
似たような事言いやがって!
思わず笑顔で言えば、二人は和やかに笑顔を返してくる。綺麗な青い髪といい、彼はお母さん似なのだろうな。それは素敵なことだけれど、人の恋心で遊ぶのはやめてほしい。
「でも、本当に嬉しいわ。こうやってまた、ヒューバートとお茶を飲む事が出来るのだもの」
カチャリ、カップを置いて、ケリーさんはそれを愛しそうに撫でた。
次いで向けた視線は、棚に立てかけられた写真立てへと向けられる。それは、もう何年も前に撮ったという家族写真。もう一度撮影することは叶わない、彼女にとって、ううん、アスベルとヒューバートくんにとっても大切な日の、思い出の写真。
「お父様はもういらっしゃらないけれど……今度はアスベルやソフィさん達も交えて、お茶会がしたいわね」
「随分騒がしくなりそうですが……まあいいでしょう。その方が兄さん達らしいですからね」
「シオリさんも来てくださるでしょう?」
「……わたし、実はそういうの苦手だったんですよ」
ポツリ、なんだか二人が“親子”なのが嬉しかったから。
ついそう本音を漏らしてしまえば、二人ともきょとんとわたしを見た。
「でも、ここは凄く居心地がいいです。みんながいるから、わたしになるような気がして。だからわたし、是非ともお茶会に参加してパスカルと一緒に騒いでシェリアやヒューバートくんに叱られて、それをマリクさんやソフィやアスベルやリチャードが「しょうがないなぁ」って笑うようなものにしたいです」
家族って、とても素敵なものだ。穏やかなその営みの中にわたしがお邪魔するのはどうにも落ち着かなくて、誰かの家族がいる時は、あまり茶化したり割り込んだりはしないようにしていた。
こちらへおいでと言われても、ここから素敵な君たちを見ているのが好きなんだよと言って。誰かに好かれたいと思いながら、そうやって好きを言い訳にして一線を引いてきた。
でも、今は、違う。彼らがわたしを好きでいてくれるって、自信がついたからだろうか。この優しい家族の中に、こうして少しだけお邪魔できることが、うれしい。みんなと一緒に笑える自分が、前よりちょっとだけ、好き。
だからそう、語ってしまったのだけれど。語った内容が、なんだか恥ずかしい。いやそもそもなんで語っているんだ。
「す、すみませんなんか語りました!」
「いいのよ、素敵なお茶会じゃない」
「ぼくだって似たようなものですし、シオリ姉さんがまさか騒ぐのが苦手だとは思えませんが……まぁ、思う存分叱ってあげますよ」
穏やかに、穏やかに。
微笑んでもらえたら、もうそれだけで胸が一杯になる。
なんだろう。
どうしてここの人達はこんなにも優しくて強くて綺麗なんだろう。
そんなだからわたしは、思わず笑顔になってしまうんだ。
「……ありがとうございます。ケリーさん、ヒューバートくん」
言った後にグイと一気にカップの中のお茶を飲み込んで、わたしはそのまま席を立った。
うん、今ならなんか行けそうな気がする。その勢いのままで、わたしは部屋から出て行った。
「わたしみんなにもありがとう巡りしてきますね! 後は親子でごゆっくり!」