「あ、シオリ、見つけたわよ」
シェリアの声がして顔をあげると、川の橋の上に立つマリクさんとシェリアの姿が見えた。
今の発言的に、たぶん、いつまでも来ないわたしを心配したのだろう。予想通り、彼女はもう、と腰に手を当てて、それからにっこりと笑った。
「まったく、いつまでたっても来ないから心配したわよ?」
「どうしたシオリ。まだ眠つけないのか」
「逆にテンションが上がって来ちゃって……でも一応シェリア宅に向かってますよ。今はちょっとありがとう巡りしてるんです」
「ありがとう巡り?」
なんだそれは、と首を傾げられて、まあ当然だよなぁと苦笑い。
わたしは軽く咳払いをして、それから二人を真っ直ぐに見た。
「はい、あの……マリクさん。わたし、マリクさんがいてくれて本当に良かったです。わたしより年上って、同い年のパスカルを抜かすとマリクさんしかいないし……結構色々と寄りかからせていただいて……ありがとうございました」
深々と頭を下げる。
初めて会った時、ウォールブリッジで、バロニア城で、いろんな場所で相談に乗って貰った。そうしたらなんだかわたしは落ち着いていろんな物が見えた。とってもとっても、寄りかからせてもらった。
だからありがとうございます、と告げてから、今度はシェリアににっこりと笑顔を向ける。
「シェリアも。この世界で一番最初に友達になってくれてありがとう。……好きでいることを許してくれて、ありがとう」
「シオリ……」
「わたし、死んで良かったのかなーなんて思うくらいなんすよ! だから……ってシェリア?」
急に抱きついて来たシェリアに少しだけ戸惑う。どうしたの、と聞こうとして肩が震えているのに気付いた。前にラントで七年前の事を聞いた時と同じだ。
違うのは、彼女の声が悲しみに彩られているわけではないということだ。聞こえてくる声は、悲しそうなんかじゃない。優しい、素敵な、いつものシェリアの声だ。
「私こそありがとう。私、シオリがいてくれて本当に良かった。私の言葉を聞いて、こうやって泣いても受け止めてくれて……ありがとう、シオリ」
「シェリア……」
嬉しくて、わたしまで目の奥が痛くなる。
あの時は彼女の涙を拭えたらと思った。
でも今は、一緒に泣いてもいいかもしれないと思い。
「シオリ。お前、この戦いが終わったらどうするんだ?」
「あー……どうしましょうね。何にも考えてないです」
「お前さえ良ければ、この戦いの後にオレの養子にならないか」
急に言われた言葉にきょとんとする。マリクさんは至って真面目だ。真面目に、わたしのことを養子にしたいって、言っている。
確かに、この戦いが終わった後、どうやって生きていこうかな、と漠然と考えてはいたけれど。誰かの養子になるとか、家族になるとか、そういうことは考えていなかった。
「ウォールブリッジでも言ったが、オレはお前が気に入ってるんだ。フェンデル暮らしになるが、別にずっとそこにいることは強要しない。シェリアは救護団として世界を飛び回るみたいだし……どうだ? うちに来ないか」
「……じゃあ、マリクパパですね」
「そうなるな、娘シオリ」
だから、想像してみた。
それはなんだか最初からこの世界で本当に生きていたみたいでとても暖かかった。
うん、そうなれたら、いいな。
「そうだ、あとアスベルだけなんだけど……どこにいるか知らない?」
「あいつも寝付けないみたいだったな。さっきここを通ったぞ」
「アスベルなら門の前で会ったわ。行ってらっしゃい」
ゆっくりとわたしから離れて、軽く頭を撫でながら笑うシェリアに、なんだかキュンとする。
だから、答えがわかった上でわたしはマリクさんに言った。
「マリクさん。わたしシェリアみたいなお母さんが欲しいです」
「え。それは、ちょっと……」
「……だそうだ」
「ですよねー」