182.星を、願う

先生、アスベルさんが見つかりません。
何故かアスベルを見つけられないので、なんとなく風車に登ってみる。高い所からなら見つかるかなーとか思っていたけど、夜の暗い中でそれはやっぱり不可能なわけで。わたしはふぅと息を吐いた。

アスベルめ、どこにいるんだこのやろー

なんてことを心の中で呟きながら、風車を動かす程ではないにしろ、穏やかな風が吹く中でわたしは拗ねたようにそこに座り込む。見上げれば、すぐに空を光で飾る星たちが視界に入った。
……ここは、本当に素敵な世界だ。
死んで良かった、なんて思ってしまうくらい素敵な世界。
向こうには確かにわたしの家族とか友達なんかがいて、わたしはそこで確かに幸せに生きていたはずなのに。
わたしって薄情者だ、と小さく笑う。

「シオリ、ここにいたのか」

ふっと、影と一緒に声が落ちてきた。
見上げればそこには星空ではなく、風車に上がって来たらしいアスベルがいた。
なんてタイミングだ、と少しだけ驚いて、わたしは茶化すように言葉を紡ぐ。

「……なんだ、探したら見付からないのにそっちから来た」
「え、俺もシオリを探してたんだが……」
「あはは、じゃあすれ違っちゃったってことか」
「みたいだな」

……見つけてくれた。
風車の上に、しかも座り込んでる今は下からなんて見えないだろう。
偶然だとしても見つけてもらえた事がなんだか嬉しくて嬉しくて、ああ、やっぱり好きなんだなぁと一人笑っていれば、アスベルはわたしの隣に座った。

「ところで、俺を探してたって事は何か用事があったのか?」
「ん? ああ、アスベルがありがとう巡りのラストなんだよ」
「ありがとう巡り?」
「うん。わたしがここに来た時からずっとずっと、守ってくれてありがとうって。寄りかからせてくれて、傍にいてくれて。凄く……嬉しかったから」

だからありがとう。
そう、心からの感謝をこめて伝えれば、彼はふわりと表情を緩める。それから、じゃあ俺からもだ、とそのきれいな瞳にわたしを映した。

「……俺も。俺も、シオリに会えて良かった。頼ってくれた時は嬉しかったし、だからありがとう」
「……うん」

にっこり、笑う彼も、やっぱりいつかは誰かの物になるのだろう。
それはシェリアかもしれないし、もしかしたらまだ見たことの無い人かもしれない。
それでも、それがわたしなんかじゃなくても、今の言葉が貰えただけで十分だった。
それだけでいい。
いい、けど。
でも、ちょっとだけ。ちょっとだけ、わがまま。
もしも、わたしがずっとずっとわたしのままここで生きる事が出来るなら。

「……ねぇアスベル、その、終わったらさ、一つお願いしてもいい?」
「ああ、構わないぞ。なんだ?」
「あ、いや、それはその時に言う」

その時は、デートしてください、なんて。
この場で言うのは恥ずかしすぎて、わたしはそうやって言葉を濁す。
だいたい、もしこのままここで暮らすならって、さっきマリクさんの養子になるって決めたばかりなんだから、叶うに決まってる。これはただ、この先違う場所で生きることになっても、まだぼんやりとでいいから繋がっていたいという我儘だ。他の人のものになってしまう前に、心の整理をつけるためにデートしてほしいっていう、なんとも面倒くさい感情だ。
だからあまり詳しく聞かないでほしいなと思っていれば、アスベルは少しだけ考えるような仕草をした後、それじゃあと笑った。

「じゃあ、俺もその時、聞いてほしい事があるから、聞いてくれるか?」
「あ、うん、全然構わないよ。シオリお姉さんになんでも言って!」
「はは、じゃあ約束だ」

そう言って小指を出してくる彼に、わたしも自分のそれを絡めた。
少しだけ、ドキドキしている。
手を繋ぐとか意外とよくやっていたわけなのだけど、それでもやっぱりドキドキするものなのだ。悪いか。だってこんな恋をするの、初めてなんだもん。
好きだ。好き。好きです。好きなんです。
小さな星でいいから、どうか。
あなたの行く先を照らせるような存在にくらい、なりたいな。