コツリ、コツリ。
目の前の積み木を組み立てて、それを何かの形にしていく。
想像していたのとは違って多少不格好ではあるが、組み上がっていく世界は確かに面白い、かもしれない。
少なくとも、何度も組み立てたくなるほどには、この遊戯と呼べるのかもわからないものに興味を抱いている。
「ラムダ」
初老の男の声がして、そちらへと顔を上げた。ここにきて、その名前を呼ぶのは一人だけだ。いいや、多くの人がいたような気がするけれど、顔を覚えるほど、足繫く現れるのは、彼だけ。
コツコツと音を立てて歩んで来た彼は“自分”の目の前にしゃがみこんで、組み立てていた積み木を見て笑った。
「積み木で遊んでいたのか。よしよし」
頭を撫でられる感触に、自分は漠然と理解する。
自分の名前。自分の頭を撫でる人間。
コーネルと、ラムダ。
その名前を認識した途端に、なんだか意識がはっきりとした気分になる。自分が今、あのコーネル研究所で“ラムダ”と呼ばれている事を理解する。
薄皮一枚を挟んで世界を眺める感覚。
夢を見る様に、わたしはラムダの中から世界を眺める。
小さな子供の姿をしたヒューマノイドは表情をつくることもできず、ただ無表情彼を……あの施設の映像で見た姿の通りの、コーネルを眺めていれば、彼は少し寂しそうに顔を歪めた。
「褒められて嬉しくないのか? 嬉しい時はこうするんだ」
にっこり、歯を出して笑う。
よくわからないが、それは少し楽しそうに見える。
だからわたしもにっこりと真似してみせると、それが不格好だったのかコーネルは穏やかに笑った。
「ははは、ぎこちないがまあいいだろう。いずれ自然に出来るようになる」
再び頭を撫でられる。
暖かいと感じるのは何故だろう。
何故、なのだろう。
「コーネル所長」
「おお、エメロード君か」
小さく音を立てて、今度は車椅子の女性……エメロードが入って来た。彼女は自分を一度無表情に見つめた後、それからグッとコーネルを見る。
「所長、私はやはりこのやり方は賛同出来ません。我々の研究目的は星の核で発見されたラムダの能力を研究する事だったはずです。情操の形成ではありません。これを続けていると倫理規定に接触する恐れがあります」
「倫理か……泣いたり笑ったり……そういった当たり前の感情すら、この子に与えてはいけないのか?」
「そうは言いますが、このボディはあくまで研究用として便宜的に与えた物に過ぎません」
「器が魂を形成する事もあるのだよ。見たまえこの子を。日に日に人間らしく成長しているではないか」
難しい話を始めた二人の会話に興味はない。自分のことにかかわるようだが、どうでもいい。
再び積み木を弄り始めて、なんとなく積み木同士をぶつければ音が鳴った。重ねれば形になった。触ればそれはただの木の塊ではなく玩具になっていく。何か、この木の形以上に、新しい意味を持つような気がした。
「エメロード君。実は私は、この子を通じて試みたい事があるのだ。もしかしたらこの子は、ヒューマノイドの枠を越えた新たな存在になるかもしれない。この子は我々にとって未来の可能性なのだよ」
「はぁ……」
「ラムダにはもっと多くの事を学ばせる必要がある。そしてのびのびと育ってほしい。そう。人間そのものとしてな」
コーネルが穏やかに笑う。
きっと、その笑顔は……