気が付いたら、カプセルのようなそれの中に閉じ込められていた。
これから何をされるんだろう。また自分の“何か”を奪われてしまうのだろうか。
あの感覚は好きではない。研究だなんだと周りの人間が何かを話しても理解ができない。ただ、自分の中の何かを奪われて、弄られるようなあの感覚は、嫌だ。
カプセルの外で操作盤を叩いているエメロードを不安げに見るが、彼女はこちらを見ようともしない。
「やめたまえエメロード君! ラムダを廃棄処分にしてはいかん!」
「もう上層部で決定された事です、所長」
「なぜだ! せっかくここまで順調に育ててきたというのに!」
「今世界中で起こっている騒動を所長も知っているはずです。ラムダの体組織を移植した生物が次々に凶暴な魔物と化し、我々の驚異となっているのですよ。しかもその原因は、ラムダ本体にあるらしい事が判明しています。どうやらラムダは、自身の体組織を移植した生物を精神的支配下に置く事が可能らしい。上層部はラムダを危険と判断し、ゆえに廃棄処分を決定したのです」
強い口調で入って来たコーネルが、悲しそうに自分を見る。
助けて、助けて、コーネル。
嫌なんだ。こんな所に置いていかないで。
声の出し方がわからないから、まだ、言葉の組み立てがわからないから。この、浮かび上がってくる何かを伝えることは、彼にはできないのだけれど。
それでもコーネルは再びエメロードを見据える。自分を守ろうとしてくれるのが、わかる。
「それはそもそも君達が嫌がるラムダを、無理やり実験対象にしたからだろう! ラムダの気持ちを無視し、理不尽な扱いをすれば怒るのも当然だ!」
「とにかく。ラムダが存在する限り、潜在的驚異は消えません。上層部はラムダを廃棄しない限り納得しないでしょう」
「こんなやり方は認められん! エメロード君、私は君を告発するぞ!」
「それどころではないと思います。上層部からはあなたを拘禁しろという命令も出ていますから」
「なっ……」
「あなたは上層部の指示に背き、独断専行でラムダの育成を進めていました。あなたはラムダを新たな星の核に育てようとしていたのですね」
「それは……!」
「所長。やはりあなたは危険な思想の持ち主です。研究の為に、世界を滅ぼしかねない。ラムダがこの世界の星の核と取って代わるなどと……考えるだに恐ろしい事です」
「私がなんの為にラムダを人間として育てる事にこだわったと思うのかね? 私は……!」
彼が全てを言い終わる前に、サングラスをかけたスーツ姿の男達が数人入って来た。
彼らは素早くコーネルを囲むと、彼をガッシリと羽交い締めにする。
待って、連れて行かないで!
「所長を連れて行きなさい!」
「待ちたまえエメロード君! エメロード君!」
ドンドンと強くカプセルを叩く。
だがそんなものじゃもちろん出て行くなんて出来ない。
コーネルが連れて行かれる。
必死に手を伸ばしてくれる彼の手は、カプセルの中からじゃ掴めるはずがない。
「ラムダを廃棄してはならん! エメロード君!」
行って、しまう。
閉ざされた扉が悲しくてたまらなくて、俯いたけれど何も変わらない。
何か言っているエメロードの声なんか聞こえない。
そうか、置いていかれるんだ。
みんなみんな、いなくなる。
「おやすみ。ラムダ」
その言葉と共に襲って来た、言い表せない圧力。
それはぐるぐると自分を囲って、そして力一杯体を押しつぶしてくる。
苦しい。
苦しい苦しい苦しい苦しい痛い苦し痛いい苦し嫌だい嫌苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦苦苦痛助け……
ゆっくりと、体が落ちていく。
ゆっくりと、自分が上っていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。