188.壊れてしまえ、壊れてしまえ。

強く強く、何度も機械の操作盤を叩いてやる。
ビリビリと零れる電気なんか気にならない。知らない。だって、壊れて動かなくなるくらいに苦しかった。あのカプセルの中は痛くて、痛くて、この体だって、一度は砕かれて。だから、この機械が壊れたって知らない。
ドン、ドン、なぐる。叩く。
いっそ壊れてしまえ。壊れてしまえばいい、みんなみんな消えてしまえばいい。
そこかしこに転がる人間みたいに、壊れて消えて、無くなればいい。
みんなみんな、大嫌い。

「っぁああ、ああああっああああああああああ!!」
「ラムダ!」

泣き声を上げるかのように叫んで、聞こえた声にびくりと肩が跳ねた。
振り返ると、少しふらついた足取りでコーネルが歩いて来るのが見えた。
思わず、後退る。

「かわいそうに……すっかりおびえて……だが安心しろ。私がお前を守ってやる。何があっても。だから、頼む。もう一度私の事を信じてくれ。お願いだ……」
「所長。勝手な事をされては困りますね」
「エメロード君!」

見えた車椅子に、再び体が強張る。
ガタガタと勝手に震えだした体を、とにかく少しでもいいから彼女から見えなくしたくて縮こまる。
怖い。
彼女の姿が、声が、言葉が、怖い。

「これだけの惨状を目にして、まだラムダを庇おうというのですか。全ての準備は整いました。ラムダはここで始末します」
「いいやどかん!」

バッと、コーネルはその両手を広げて自分の前に立ちふさがった。
大きな背中が、大きな声で自分をエメロードのあの冷たい視線から守ってくれる。守って、くれている。
……彼は、まだ自分を、置いていかない。

「私はラムダを守る。何があろうと守ってみせる!」
「……仕方ありませんね。手荒な真似はしたくありませんでしたが」
「私を信じろ……ラムダ」

そう笑う彼が、とても優しくて。
自然と自分の表情が変わるのがわかる。頬が、緩んで、口が開く。笑顔、だっただろうか。勝手に笑顔になるこの感情が、コーネルの言っていた“嬉しい”という物なのだろうか。
それはとても、満たされるような、何かあたたかなもので、今までの苦しいも何もかも消えていくような、そんな。

「うわっ!!」

突然、コーネルは小さく悲鳴を上げた。
肩を押さえてそこにズルズルと座り込む。
なんなんだとエメロードを見れば、彼女を囲むように立つ二つの影……この体と同じ、ヒューマノイドがいた。
それらがコーネルを攻撃したのだ。

「エ、エメロード君……そのヒューマノイドはまさか……」
「所長のラムダ研究を参考にして私が新たに作り上げました。素晴らしい出来栄えでしょう? さて……」
「ラムダ! あのシャトルまで走るんだ!」
「彼らを捕らえなさい! 抵抗するようなら射殺しても構いません!」

二つの声に弾かれるようにシャトルへと走る。
逃げろ、逃げるんだ。コーネルと一緒に。
その一心で、中へと足を踏み入れた時だった。
後ろから悲鳴が聞こえたのは。
肉を突き破る音が聞こえたのは。
走りながら振り返れば、コーネルが……コーネルが、その体で倒れるようにシャトルへ入るところだった。
扉が閉まる。
その直前に見えたのは、コーネルを撃ち抜いたあのヒューマノイドの姿。

「……!!」

急いで倒れ込んだコーネルのもとへ駆け寄る。
彼は懐からシャトルの起動スイッチを取り出すと、力の入らない声でゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「すまない……私はどうやらここまでのようだ……」

何を、言っているんだろうか。
この人間は、何を。

「ラムダ……このシャトルでエフィネアへ行くんだ……そして……星の核へ……」

嫌だ。
嫌だと思った。強く。
また置いて行くのか、またいなくなるのか、また……

「……生きろ……ラムダ……」

スイッチが、押された。
シャトルが起動したのを地響きで感じる。
だが、コーネルの動きは止まった。
無理やり揺さぶって動かしても、彼は動かない。
ああ、死んだのか。
死んで、しまったのか。
死ぬのは、わかる。動かなくなること。わかっている。
ぼんやり考えて、沸々と何かが胸の奥から沸き上がってくるのを感じる。
何か言葉にしなければ窒息してしまいそうなほどの感情が、体を震わせる。

「う……うう……ぅあ……」

どうしてコーネルが死んだ?
どうしてどうして、そんなにも自分が憎かったのか?
どうしてコーネルが代わりに、あんなに優しくて大きくて暖かいコーネルが、こんなに冷たくなっていくんだ?
嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌悲悲悲嫌嫌悲悲悲悲悲悲悲悲悲嫌だ、嫌だコーネル!

「ああう……っああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

ひとりに、しないで。