190.いきて、いるの

ぶつり、途切れた映像に最後に映ったのはどこかリチャードに似た幼い少年だった。
その最後の光景を思い出しながら、みんなが呆然とつぶやく。

「ラムダは……何もしていなかった……?」

ただ、生きようとした。
コーネルさんの願い通り、生きようとした。
ぼんやりと自分の胸を握るように触ってみる。
……あの感覚を、わたしは知ってる。苦しくて痛くて助けてほしくて、でもどうにもできなくて。ただ必死にそれが終わるのを待った、あの感覚……前に何度か感じたあの頭痛の時と、同じ。
あれは、ラムダのものだったのか。
ラムダの、悲鳴、だったのか。

「それでも責任だけ押し付けられた……ってとこかな」
「あのコーネルという人は、自分の命をかけてラムダを助けたのか……あの人はラムダの、唯一と言ってもいい味方だったのかもしれない……それに、今のは……」
「今のはわたしが初めてこの世界に来た記憶と……」
「七年前の……記憶よね……」
「あの時の魔物は、ラムダだったんですね……」

そう呟くラント出身者達に、ああ、今のが“七年前”の出来事なんだなと理解する。
そして、その七年前の事件の時に、リチャードとラムダが出会ったという事も同時に理解した。

「ラムダは生きる事に執着しているように見えた」
「ただ……生きたいだけ……」
「……ラムダの気配がする。多分そう遠くない」

ソフィの言葉に、みんな再び歩き出す。
その中で、アスベルだけはやはり何かを考えるように足取りが重い。
ラムダの事を考えているのだろう。
それは決意なのか、同情なのか。それはわからなかったけれど……わからないけど、何故か嬉しいと思った。

「アスベルは、凄いね」
「え?」
「ラムダの事。そんなに考えてくれるなんてさ」

だから思わずそう言ってしまった。
アスベルはそんなわたしを少しだけ驚いたように見て、それから柔らかく笑う。

「凄くなんてないさ。ただ……辛い時、俺には仲間がいてくれた。もし、その時に一人だけだったら……きっと、ラムダと同じ事をした気がする。そう思っただけだ」
「もしアスベルがラムダと同じ事をするんなら……そしたら、わたしはアスベルに感謝しなきゃいけないね」
「感謝?」
「だって、ラムダがいたからみんな生きてる」

そりゃあ、ラムダがいたからこんな事になっているわけだが。
前に聞いたシェリアの話では、体の弱かったシェリアが今ほど丈夫になったのは“七年前の事件”の後。
つまり、粒子化したソフィのおかげ……という事だ。
リチャードも、あの時毒を盛られていたようだが、ラムダの力で生き繋いだ。
そしてわたしも、ラムダのおかげでここにいる。
ラムダのおかげで、生きている。

「アスベルはアスベルの守りたい物を守ってよ。自分が願う未来を。守りたい人の未来を。今を。同じだって言うなら尚更。こういう生き方も出来るって、示せばいい」
「シオリ……」

あの心細さと衝撃と絶望、孤独、痛み。
あれはとてもとても辛くて怖くて苦しいから、それを乗り越えて生きていけるなら、それを示して欲しい。
……とまで思って、わたしはハッとアスベルに向き直った。
なんだかわたし、凄いわかったように偉そうに語ってる!

「ご、ごめんね。なんか意味わかんないし小言みたいで……」
「いや。ありがとう、シオリ」

くしゃり、頭を撫でられて、何故か急に「コーネル、」と名前を呼びたくなった。
これはラムダのものなのだろうか。
それは、ラムダの。