192.ごめんね、わたし

「炎と踊れ! この剣技見切れるか! ブレイズワルツ!」

マリクさんの技を決め手に、人形のような魔物はその動きを止めた。
はあ、と息を吐いて幼いわたしの方を見れば、彼女は不機嫌そうにわたし達を見ている。

「なんとか……止まった……?」
「ちょっと、いきなり何するのさ。そもそもどうしてここに……」
『大嫌い』

わたしの言葉に被せて、彼女は強くわたしを睨んだ。
キッとした目に思わずたじろぐと、今までの無口ぶりが嘘のように次々に言葉を吐き出し始める。

『みんなみんな大嫌い! わたしに触らないで、わたしを見ないで、わたしに近付かないで! わたしさえいればいいんだから、わたしさえいなければ良かったんだから、みんななんか要らないんだからぁ!』

急にこちらに突進してきたかと思うと、そのまま子供の力でドンドンと叩かれて、わたしはどうすればいいだろうとうろたえる。
他のみんなもどうしたらいいかわからないみたいだ。
グイと強く腕を引いて、幼いわたしは必死にわたしを見る。

『わたしに愛されたいなら愛してあげる! わたしを愛したいなら愛されてあげる! だからもう止めよう、もう帰ろう。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、もう、嫌だよぉ……』
「わ、わたしは……」
『約束、守れなくなっちゃう』

ついに泣き出した彼女に、わたしは何を言えばいいのだろうか。
わたしはみんなが大好きで大嫌いで大好きで大好きで大好きでわたしが大嫌いで。
ああ、いつもなら色んな言葉が浮かぶはずなのに。目の前の子供がわたしの姿をしているせいだろうか。何も、何も思い浮かばない。

『一人に帰ろう。だってわたしはわたしを愛したいんでしょ? もうみんななんか要らないよ、みんなわたしを好きになんかならないもん!』
「そんなことない。わたしはシオリが好き」
「あたしだって大好きだぞ〜!」
『嘘! 嘘嘘嘘嘘! みんなわたしを置いてっちゃう、違う子と走ってしまう。雨の中に置き去りにするんだ。だから、だからわたしが……!』

ソフィとパスカルがそう言ってくれたが、彼女はそれを遮るように叫んだ。
どうしてこんなに後ろ向きなんだ。わたしってそんな子じゃないと思ってたんだけど……
ああ、違うか。いつも頑張ってただけで、本当はこんな感じだったっけ。
なら頑張らなきゃ。泣いたって仕方ないんだって、そう頑張らなきゃ。

「大丈夫だ」

ポスリ、わたしの横から幼いわたしに向かって腕が伸びた。
その腕は彼女の頭を優しく撫でて、そして笑う。
アスベルが、笑う。

「俺がシオリを好きでいる。例え未来がどうなったって、置いていく結果になったって、シオリをずっと好きでいる。だから、大丈夫だ」

どうして、アスベルの言葉はこんなにも凄い力があるんだろう。
嬉しいと思った。
彼が言うなら、本当になる気がした。
まるで幼いわたしのお父さんみたいだなんて思ってわたしはぷすりと笑う。
それから少しだけ茶化すように言った。

「アスベル……前にも、似たような事、言ったよ」
「そ、そうだったか?」

その時は“守る”だったけどね、と笑えばアスベルは自分の頭を掻く。
その様子をジッと見ていた幼いわたしは、やがて泣いて赤くなった目でじとりと睨んだ。

『……それなら一人になるの? またやせ我慢するの?』
「大丈夫だよ。……わたし、一人じゃないから」

ソフィがいてパスカルがいて。
ヒューバートくんやシェリアに叱られて。
マリクさんの子供になって、リチャードと友達になって。
そして、アスベルを好きになったこの世界は、とても幸せだから。
もう、無理なんてしてないから。

『……大嫌いだ』

笑っていたわたしを見て、彼女はやっぱり泣きそうになって……そうして、消えた。