ソフィの攻撃で立っていられなくなったらしい彼は、だが膝を着く事も出来ず肩から落ちるように倒れ込んだ。
「バ……バカな……何故僕達が……こんな……」
「ラムダ! リチャードから出て来て! お願い!」
シェリアがそう悲痛な声を上げるが、彼は地面を転げるだけで分離する様子はない。
どういう事だと首を傾げれば、ソフィが強張った表情でリチャードを見た。
「リチャードとラムダの融合が進みすぎたせいで……分離が出来ない状態なのかもしれない」
「なんだって……!」
それじゃあもう、と言葉を発してしまう前に、アスベルがリチャードの下へと駆け寄る。
うっすらと目を開け、彼を確認したリチャードは力無く笑った。
「アスベル……君なら僕を止めてくれると思ったよ……僕は……裏切られるくらいなら、誰とも関わりたくない……」
あの優しい声で弱々しく呟いて寝返りをうつ。
仰向けになった彼の口からは、またあの低い声が紡がれる。
「いや……いっその事、誰もいなくなってしまえばいい」
みんなみんな、大嫌い。
「みんな……消えてなくなればいい……そう思う一方で……誰かに救って欲しい……わかって欲しいと……思っていた。君と争いながらも……君に……助けて欲しいと願うなんて……」
「お前は俺の友達だ……! どんなに争っても、俺はお前を見捨てない! 見捨てられるもんか!」
間髪入れずにそう叫んだアスベルを、リチャードは驚いたように見上げる。
「アスベル……君はこんな僕を……まだ友と呼ぶのかい……?」
返したのは無言。
力強い眼差し。
リチャードは穏やかに笑った。
「ありがとう、アスベル……だが僕は……気付くのが少し遅かったようだ。遅いんだ……何もかも……遅かったんだよ……」
コロコロと変わる声色。
わからなくなっていく表情。
全部全部、嫌な予感しかしない。
「僕はもう……ラムダの気持ちと……自分の気持ち……どっちが自分の気持ちか……わからなくなってきているんだ……このままでは……君達の命を……奪う事になってしまう。だから……今の内に……止めをさすんだ……早く!」
「リチャード! 諦めるな!」
『そうはさせない……』
ビクッと、体が大きく跳ねた。
聞こえた声はどこか懐かしいような怖いような愛しいような、わけのわからない“強さ”を感じる。
リチャードは声と同時に苦しそうに呻き声を上げると、必死に目を開いてアスベルを見た。
「アスベル……僕がラムダの意志を抑える、早く止めを……うおおおおお」
一際苦しそうな声を上げて、リチャードはその場を転げ回る。
黒い光が彼を持ち上げるように囲み宙へ浮かせ、次第に高く高く連れて行った。
「ぐぉおお……ラムダ……一緒に行こう……もうこんな過ちを繰り返すのはおしまいに……するんだ……!」
『我と共に……消えると言うのか……生きる権利を、自ら放棄すると言うのか……ありえん……我々を苦しめた存在のために消えるなどありえん! 消えるのならば……一人で消えよ! 生きる意志のない者に……興味はない!』
悲鳴にも似た声がリチャードから上がる。
リチャードを圧迫させるような光に、このままではいけないと思うのに体が動かない動いてくれない。
それはわたしだけで無く、他のみんなもそうだ……いや、違う。
ただ一人、アスベルはリチャードの名を呼ぶと、迷い無く地を蹴りその腕をリチャードに向かって伸ばした。
強い光がアスベルにも絡む中、彼は決してリチャードを離す事無く引っ張り、やがてあの黒い彼ではない……ウィンドルの王族としての服を纏った、わたし達の良く知った姿のリチャードを抱えて一緒に落ちた。
ぐったりとしたリチャードを抱えたアスベルは何事も無く、だからこそソフィはキッとラムダである光を睨んだ。
「ラムダ……!」