198.ラムダと、わたしの

ふと、死んだ日を思い出した。
強い雨で出来た水溜まり。
消えていく感覚と孤独感と焦燥感。
音を立てる車と、悲鳴を上げて離れていく友達。
心残りはあった気がするけど、それ以上にもうどうでも良かった。
自分なんかいらない。
こんなわたしなんかいらない。
ごまかして愛したって、全然愛せないんだもの。



「焔、其は猛き理想の陽炎、英雄を導く、白き柏陽の光……クロスフレイム!」

いつか使った時よりもずっと大きな炎が浮かび、周り全てを吹き飛ばそうと地上に落ちる。
それを教えてくれたあの人は転がる事でそれを避けて、戸惑いながらも戦闘の体制に入った。

「ぐっ……シオリ!」
「どういう事? また、ラムダに……」
『どうする、仲間だった人間も敵として排除するのか?』
守らなきゃ
「ラムダ本体が現れたせいで、精神干渉から逃げられなくなったみたい……!」
「凍牙、其は猛き蒼姫の氷刃、永劫凍てつく世界が見し終焉の光……クロスフリージスト!」
「うひゃっ!」

ラムダに近付こうとする彼女や少年を追い返そうと、彼女に教わった術を周りに展開させる。
吹き荒ぶ冷気に弾かれる二人を仕留めようとラムダの技が飛び、それに少年はどこかつらそうな表情でその銃を撃った。

「くっ……仕方ありません、スカーレット!」
「ヒューバート!?」
「……前に疑っていろと、すぐに攻撃出来るようにしていろと、姉さんに言われましたから」
『ふん。だからとて直ぐに刃を向ける……どんなに最初は思っても、害があると判断すればすぐに排除する。消し去る。お前達も同じだな。』
生きなくっちゃ
「雷、其は猛き夢想の閃光、英雄を刻む黒き刻印の光……クロスサンダー!」
『滅びよ!』

わたしの雷に上乗せされたラムダの力が、立ちすくんでいたあの子に直撃する。
大きく体を傾かせた、雷を教えてくれたあの子はそれでも戦闘体制に入ろうとせずわたしを見つめた。
今にも泣きそうなそれに心がざわついたような気がするけど、そんなのは関係ない。
関係ない、んだ。

「シオリ……っ」
「友には癒やしを、仇なす者には戒めを……シャインフィールド! ……シェリア、今は一度シオリを止めよう。じゃないと!」
「………………っわかったわよ! でもこれは、あなたからシオリを返してもらうためよ、ラムダ!」
『口ではなんとでも言える! そうやって理由を付けても、傷付ける事に変わりはない!』
「神聖なる雫よ、この名を以ちて悪しきを散らせ! ライトニングブラスター!」

飛んできた雷を避けると、予想以上にわたしとラムダの距離が開く。これじゃあ盾になれない……そう駆け寄ろうとしたら、目の前に彼が立ちふさがった。
あの強い目でわたしを行かせまいと剣を取り立ちふさがる。
邪魔だ……そう剣を振り下ろしても、軽くあしらわれて終わる。

「アスベル! ラムダはオレ達でなんとかする、お前はシオリの動きを止めろ!」
「どいてっ星羽!」

約束したの

「双星!」
「葬刃! シオリ、話を聞け!」

最期だった

「光翼星!」
「しまった!?」
「光よ集え、全治の輝きを持ちて、彼の者を救え! キュア!」
「ソフィ、助かる!」

だから

「話を聞け、シオリ……!」

ガキンと、音を立てて剣が手から落ちる。
いつの間にか追いやられていたらしい壁を背に、わたしのすぐ横に彼の剣が突き立てられる。
どうしよう、詠唱じゃ間に合わない。
いっそわざと貫かれて動きを止めようか。
一人でも足止めすれば、あとはラムダに任せて大丈夫だよね?
そう手を伸ばそうとして、その手は何か暖かい物に掴まれた。
真っ直ぐにわたしを見て、わたしの手を掴む彼の手。
なんだろう。なんなんだろう。
なんでか胸がざわついてたまらない。
消さないといけないのに動けない。
消さないと消さないとじゃなきゃ消されちゃう消されちゃう消さないと!

「大丈夫だ」

ふわり、声が落ちてくる。
大好きな声が、笑顔が、見える。

「お前も、ソフィも。誰一人、消させたりなんかしないから」

攻撃が、できない。
彼の背中がラムダの所に走っていくのを止められない。
止めたくない。
そうだ、わたしは彼を“止めたくない。”

……好きになってみたかった。
生きたいと泣き叫ぶくらいに何かを。
その人が好きでいてくれるわたしを好きになれるくらい、誰かを好きになってみたかった。
泣き声がしたんだ。
生きたいって、大切な人の言葉を必死に守ろうと泣いてる声が。
雨の中で、響いてたんだよ。


「約束をしよう」
「わたし達、一緒にいるの」
「そしたら、どっちかが倒れたって」
「生きて、いられるよ」


ごめんなさい。