202.手を、繋いで

そこで声が途切れて、わたし達の耳に届くのはみんなの息遣いだけになった。
しばらくはその事に気付かないでいたが、やがて聞こえなくなってしまったのだと気付いて、慌ててアスベルの名前を呼び出した。

「あれ……? 何も聞こえなくなっちゃった!」
「アスベル!」

少し強く呼んでいれば、やがてアスベルは小さく呻いた。
恐る恐るといった感じに瞼が持ち上がり、わたし達を確認するようにその目を動かす。
あの青い双眸を、左だけ美しい紫に塗り替えて。

「ん……みんな……」
「アスベル……」
「良かった……」
「ああ……」
「う……」

思わず零れた安堵の声。
起き上がろうとするアスベルをシェリアが支えて、パスカルが早口に問いかけた。

「アスベル、大丈夫?」
「アスベルとラムダが話してるの、あたし達にも聞こえてたよ。ラムダは……消えちゃったの?」

それにアスベルが答えるより先に、ソフィが彼の手を自分の額に押し当てる。
何かを考えるように押し黙るソフィに、みんなはもちろんアスベルも首を傾げる。

「ソフィ……なにを……」
「……違う。今までみたいな反応じゃないの」

不思議そうに呟くソフィ。
反応はあるけど、何かが違う。
その意味を、わたしもなんとなく理解した気がした。
違うのだ。
もう、苦しくないのだ。

「それじゃ……ラムダは消えたの?」
「これは……それとは違う気がする。このラムダは……消せない。消す必要がないラムダ」
「どういうことなのだろうな」
「ラムダは……眠ると言っていた。少し眠らせてもらうと」
「じゃあもうソフィが自分を犠牲にする必要はなくなったって事?」
「ああ」

アスベルの肯定にみんなが笑う。
ソフィもほわっと顔を綻ばせて笑った。
わたしはなんだか凄く泣きたくなって、でもなんだか一人で泣くのは恥ずかしいからと強く力を込める。
そうして、色の変わってしまったアスベルの目にそっと触れた。

「シオリ?」
「……アスベルの青と……ラムダの赤い目。混ざって、紫になったんだね」
「そう、なのか? 自分じゃわからないんだが」
「アスベルもソフィも……ラムダも。ちゃんとここにいるんだよね?」

このままハッピーエンドなのだと、そう思っていいのだろうか。
もう誰かが消えるなんて考えなくていいのだろうか。
わたしは……ラムダも。
このままここで生きてもいいのだろうか。
そんな問いを込めた言葉に、アスベルはそっとわたしの手を握る。
そうして、あの大好きな穏やかで強い笑顔を浮かべてみせた。

「言っただろ。お前も、ソフィも、誰一人消させやしないって」
「……っうん!」

戻ろう。
みんなの、帰るべき場所へ。

立ち上がったみんなの顔は、とても晴れ晴れとしていた。