26.回り道の、危険なこと

「今は非常事態につき、許可無き者を通すわけにはいかない。申し訳ないが、ここを通るのは諦めてくれ」

そうきっぱりと言われ、わたしは仕方なしにグレルサイドへと戻る道を歩いた。
一刀両断。ごねたって無駄。ぴしっと伸ばした背筋も表情も変えなかった門番らしき人とのやり取りを思い出して、これからどうしようと頭を抱える。
この橋がそのまま砦となっているらしいウォールブリッジを使わないでバロニアに行く方法なんてわからない。そして海には出られないとなると、もおう完全に手詰まりだ。
いっそラントに戻るのも手だろうか。

「……いやいや、そしたら絶対にアスベルさんとシェリアに怒られるな……あの女の子は庇ってくれなそうだし、何より2日で迷子になって帰るってなんかなぁ……」

うーん、と唸っていると、わたしとは違う唸り声が聞こえてきた。
他にも誰かが迷っているのかなー、というのは、さすがに楽観的過ぎる意見である。いや、わかっているとも。そんなわけないと。このひしひしと感じる嫌な予感、外す気がしない。
そう思いつつ、現実になってしまっても嫌なので振り向かないでいるけれど、その声は確実にわたしに近付いている。それでも走れば逃げ切れる……なんてはずもなく。わたしは簡単に唸り声の主である木のような魔物に囲まれた。

「……あー……ぴ、ピンチというやつでしょーかこれは」

ハハハ……ととりあえず笑ってみる。
笑ってごまかせたりしないだろうか。

「うひゃっ!」

しなかった。当然である。
種みたいなを飛ばされて、大きく後ろに飛んでなんとか避ける。
どうやらやるしかないらしい。
わたしは大きく一つ深呼吸をして、剣を抜いた。
相変わらず順手と逆手で持った二つのそれを前で構えて、一気に駆け出す。

「たぁっ!」

左手で切り上げて、右手で勢い良く突く。それから体を回転させながらもう一度左手で斬りつけた。
おお、わたしなんだか格好ついてる。
なんて喜んだのがいけなかったのか。その直後、全身に衝撃が走った。唐突なそれに数秒おいて、一気に痛みが走る。
どうやら木の魔物が放った風の術に斬りつけられたらしい。

「……っ!」

歯を食いしばってみるが、それで痛みが和らぐわけではない。
切り裂かれた箇所からドクドクと血が流れていくのを感じる。痛い。当然だ。ガタガタと体が震えるのは恐怖なのか傷からなのかもうわからない。
ただ、ただ思うのは。

……死にたくない。
わたしはまだ死にたくない。怖い。わたしはまだ、まだ、まだ……

「乱れ飛べ翠影! ウィンドニードル!」
「うわっ!?」

震えるばかりで満足に動けないでいるわたしを庇うように、緑色の……風だろうか? トゲのようにも見えるものが直線上にいくつもとんで行くのが見えた。
直撃した魔物が怯んだ隙に、ぐいっと腕を引っ張られる。何故かその時怪我した場所を掴まれたはずなのに痛みなんてなかったから、わたしは特に抵抗することもなく、そのまま腕を引っ張られるままに茂みに入り、何かの起動音を聞いた。