遺跡の中は動く足場を利用して移動するらしい。迷路みたいになっていて方向がすぐにわからなくなるけれど、そこは頼りになるパスカル。ここはさっき通ったね、と素晴らしい記憶力で誘導してくれる。
途中、トカゲとかコウモリみたいな魔物と何度も遭遇したが、それらをなんとか凌いで進んだ。
パスカルは杖を使うが、それをまるで銃のように使って前線にいるわたしをカバーして、自分の周りに来た魔物を陣術という魔法でびゅんびゅん吹き飛ばしている。
軽快な動きを見るのはなんだか楽しい。それと同時に感じる自分の無力さを歯痒く思ってしまうのは、まあ仕方のない事だ。
「はぁ……敵、沢山いるなぁ……」
「もう疲れちゃった? 向こう側に広い所あるみたいだから、一度休もうか」
「うん……ごめんねパスカル」
「大丈夫? すっごい疲れてるみたいだけど……魔物を倒すの、やっぱり辛い?」
「今まであんまり動かなかったから……でも、魔物を倒す事はそんなに辛くないよ」
全然余裕! といったパスカルに、わたしは苦笑いを浮かべる。これは基礎体力の違いだろうな。やっぱり引きこもりは良くない。もっと適度に運動をしておくべきだったと今更ながら後悔する。
ついでに、先ほど気付いた治癒力についても検証できてしまったわけだけれど、確かに治癒力がもの凄い状態らしい。
どんな怪我も少し時間をもらえればすぐに消える。流れた血もすぐに戻っているようで、貧血でふらつくこともない。痛みは感じるし、疲れもするので万能ではないが、まあ、おそらく死ぬことはないだろうということで少しだけ安心しつつ。どうしても倒していかないといけない敵たちに、なんとも複雑な気持ちになる。
だって、いくら自分の身を守るためとはいえ、わたしは今、生き物を殺しているのだ。気絶だけで済ませているわけじゃない。生きるために別の命を犠牲にして進んでいる。
それが、どうにも心苦しくてたまらなかったけれど……ここまでくる間で、割り切り方を決めた、というか。ひとつ、ルールを決めたのだ。
同じように命をいただく食べ物と同じ。好き嫌いせずに全部食べるように、わたしの罪悪感を軽くするためのルール。
「相手のこれからを奪う代わりに、わたしはその相手のことを絶対に忘れないって決めたら、ちょっと切り替えられるようになった」
わたしは、わたしが命を奪ったもののことを忘れない。
わたしが倒した相手のことを、出来る限り覚えている。
そりゃあ、全員、全部、一切忘れないなんて、難しいってわかっているけれど。魔物図鑑というものをさっきパスカルにもらったし、それも活用して、覚えておきたいって思う。
どんな敵で、どんな相手だったのか。
どんな命だったのか。
真正面から向き合うことがわたしなりの礼儀で、わたしなりの愛だ。敵が受けるはずだった愛情や幸福を奪うのだがら、わたしが愛してあげればいいのだ。
そう意気込んで説明すめば、パスカルは面白いものを見るようにわたしに近付いてくる。いや、実際、おもしろいんだろう。基本的にみんな魔物と戦うことにためらいが無いし、当たり前、という感覚みたいだし。いちいち気にしているわたしがおかしいのだ。異世界ギャップというやつである。
「ふーん、なんか不思議な事考えるんだね。そんなとこも惹かれるなぁ」
「そっかなー」
「そうだよー……およ? なんだこれ」
いくつめかの開けた場所に出て、これまでは見なかった大きな何かを見て足を止める。
石版、だろうか。それぞれ微妙に形を変えた石版が連なって、ゆったりと浮かぶそれは、確かに不思議な物体だ。
なんの装置だろう。首をかしげている間に、パスカルはそれに近付いて暫く眺めると、軽いリズムで手前の石版を叩いた。
「んー……パカパカピコっと」
「え、それで動くの……?」
思わず呟けば、連なっていた石版は急に回転を始めて広がった。どうやら本当に動くらしい。
嘘だ! と思わず叫びそうになって、石版の中央に浮かんだ映像に違う意味で叫びたくなる。
まるでホログラムのようにそこに浮かんでいたのはソフィ……アスベルさん達がそう呼んだ、あの花畑の少女の姿だったからだ。
「あれ……」
「およよ? なんだこれ、幻?」
見れば見るほどソフィさんそっくりだ。本人ですよね? と問いたくなる謎のホログラムは、しばらく表示されたあと、やがて僅かな音を立てて消えた。
「あーあ、消えちゃった。シオリをバロニアに送ったらまた調べに来るかー」
「……遺跡を出るまでで大丈夫だよ」
「だーめ。超治癒力だってさっきまでの戦闘でもわかったけど、ちゃんと対岸に出られたかもわかんないし、また迷子になっても大変でしょ?」
「……ごめん、ありがとう」
まったくもってその通りだと。
迷子前科者のわたしはおとなしくうなずくことしかできなかった。