29.不意打ちの、再会

夢を見る。
どこかに倒れるわたしの全身を、雨が打ち付ける夢。
誰かが、一人で泣いている。
誰かが、寂しそうにうずくまっている。
わたしは、それを見ていられなくて。
近くに行ってあげたくて。
だから、わたしは……



「シオリ! 起きて!」
「うなぁ……」

ガクガクと揺さぶられて、意識が浮上していく。先ほどまで見ていた夢のことなんて忘れて、わたしは現実の世界で目を覚ました。
ああ、せっかくいい気分で寝ていたのに。遺跡をようやっと抜けて、目的の対岸へと渡れたことを確認して。安心して、ちょっと休憩、って、そう決めて。パスカルが寝てもいいよっていうから、お言葉に会甘えてすやすやと気持ちよく寝ていたのに。
何かあったのだろうか。でもわたしはまだ眠い。きっといっぱい回復して体が疲れちゃったのだ。まだ寝たい。

「お〜い!」
「待って……あと5時間……」
「……あと5時間したら起きるってさ」
「待てるわけないだろ……」

パスカルの声に混ざって誰かの声がする。
たぶん、茂みの向こうに誰かがいて、パスカルと話をしているのだ。どこか聞いた事があるようなそれを不思議に思うが、いかんせん眠い。
グレルサイドを出てから今まで休みらしい休みをしていないんだ、まだ起こさないで……

「……シオリ……」
「え? シオリ?」

ああ、やっぱり聞いたことがある声がする。
その声が、怪訝そうにわたしの名前を呼ぶ。
名前を知っているということは、当然だけどわたしも知っている人だ。そして、そんな知り合い、ほとんどいない。
あれ、と少し嫌な予感がして、わたしは渋々ながら目を開く。途端に眩しい光が視界を奪ったけれど、それでも目を細めて見やれば、わたしの目の前にいるパスカルと、その奥で茂みから顔をのぞかせる……

「……アスベルさん? と、可愛い子と美形……?」

……の、姿が、見えた。
ぽかんとわたしを見つめているアスベルさん。それから、「ソフィ」とアスベルさん達に呼ばれていた少女と、あと見知らぬ青年。
あれ、どうして二人、ここにいるんだろう。ラントに残ったはずなのに。
というか、ぽかんとしていたアスベルさんの表情がどんどん険しくなっていくのを見て、わたしは慌てて眠気を手放した。

「お前、なんでこんな所に? バロニアにいるんじゃなかったのか? それに、その服は一体……」
「え、え〜と……」

これはいけない。まずい。どうしよう。
アスベルさんの視線はわたしの血だらけで破れまくってる服に注がれている。当然だ。だって、服だけ見れば怪我人だ。
バロニアに戻ったはずの人間が、こんなところで、血まみれの服を着て昼寝をしている。
普段優しい光を宿している瞳が鋭く細められていくのも当然である。
どうしよう。なんて言い訳をしよう。迷子になったまでは許されても、すぐに治ったけど大怪我しました、は、心配をかけて怒られてもおかしくない。

「これはですね、その、」
「シオリは今からバロニアに行く予定なんだよ。向こう岸で迷子になって魔物に襲われてたから連れてきたの」
「ぱ、パスカル!」
「迷子? 魔物に襲われてた?」

空気を読まずに明るく説明したパスカルの言葉に、アスベルさんが取り巻く空気がピリピリとしていくのがよくわかる。
ああ、口止めしていれば良かった。
というかどうしてここにアスベルさんがいるんだ。そう考えても答えなんて出るわけもなく。
わたしはいつまでも緩まる事のないアスベルさんの厳しい視線と声に、やがてがっくりとうなだれて、自分から正座をした。

「……シオリ」
「……ご、ごめんなさい。真っ直ぐ、その……グレルサイドに向かっちゃって……ウォールブリッジも越えられなくて……迷子になってしまいました……」
「……怪我は?」
「それならもう治ったよ! なんか治癒力が凄いみたいで、数秒で綺麗さっぱり!」

必死にそう説明して、ほら! と少し服をずらして肩を見せる。
一番出血が酷かったそこには、もう傷跡なんて残っていない。それを見せれば安心してくれるだろう、と思って起こした行動だったけれど、アスベルさんは安心してくれるどころか、一瞬泣きそうに顔を歪めた。
どうしたのだろう、と思った途端に、ぐいと力強く腕を引っ張られる。
そしてぽす、と何か暖かい物に頬が触れて包まれるような感覚。

数秒遅れて、わたしはアスベルさんに抱き締められているのだと、気付いた。