「あ、ああああああアスベルさん!?」
一気に体中が熱くなるのを感じて、あわあわと名前を呼ぶ。
恥ずかしい。こんな、だって、抱きしめられるなんて!
確かにわたしは人に触れること自体は嫌いじゃない。素敵な人がいれば手を取るし許されれば自分から触れだってする。だから決して嫌いじゃないし苦手でもないが、自分からやるのと人にやられるのでは勝手が違う。
「良かった……」
突き飛ばすわけにもいかないしどうすれば、とただ顔を熱くしていれば、ポツリとささやかれたそれが鼓膜を揺らした。
その、弱弱しい声に。わたしが思っていた以上に心配をかけてしまったのだと気づいて、わたしはゆっくりと力を抜いた。
「シオリが無事で……良かった……」
「……ごめんなさい。心配かけて。でも、本当に大丈夫だから」
ぽんぽん、と腕を背中にまわしてあやすように叩く。
心配しなくていい、大丈夫だと言っておきながら、再会した時に迷子だ襲われて怪我しただの聞かされたら、そりゃあ心配するよね。
特にアスベルさんは誰かを守る事に必死みたいだから、余計にダメージがあったようだ。
ごめんなさい。今回は事態を軽く見ていたわたしが悪い。心配かけてごめんなさい。でも、そんなに心配してくれて、ちょっと嬉しいとも思ってしまってごめんなさい。
もう大丈夫だよ、と伝える様に優しく背中を叩いていれば、んん、とわざとらしい咳払いの音がした。
「いい雰囲気なのを邪魔して悪いが、早く行かないかい? どうやら本当に地下遺跡を通ればグレルサイドに行けるみたいだし、ね」
「「!?」」
アスベルさんといた謎の青年の言葉に、バッという効果音がぴったりなくらい勢い良く離れる。
わたしもアスベルさんも、顔が赤い。
いやまあ、当然なんだけど。それを認識すること自体が恥ずかしくて、わたしは慌ててアスベルさんから視線を逸らした。
「あっわっごっごめん!」
「い、いや、こっちこそっ!」
声が上擦ってしまうのは仕方のない事だと思う。
だってこんな、ラブコメみたいなこと、初めてだ。いや、相手は絶対そんな気持ち無いし、まだまだわたしの保護者だと思っているだろうから、勝手にこんなに恥ずかしくなっているわたしが悪いんだけど!
この気恥ずかしい空気の流し方がわからない。ええと、ええと、こういうとき、どうやって受け流せばいいんだっけ!?
「いいねぇ青春。ね、ソフィ、あたし達もぎゅっとしよ〜!」
「そ、ソフィ?」
動揺するわたしの腰に、何かがくっついてくる。
まるで天の助けだとばかりにそちらに目をやれば、先ほどかけられたパスカルの言葉を華麗にスルーして、わたしの腰にぴったりと抱きついてきたあの女の子と目が合った。
じっと、静かにわたしを見ている女の子。パスカルが彼女をソフィと呼んだのは、ちゃんと気付いている。
彼女の名前は本当に“ソフィ”だったのだろうか? と視線で問えば、アスベルさんも困ったように頬をかいた。
「あ、ああいや、そういうわけじゃないが、呼ぶ時に不便だからな。とりあえずそう呼ぶ事にしたんだ。それで、急に抱き着いてどうしたんだ、ソフィ」
「わたしも心配、したから」
だから抱き着いた、という彼女は、たぶん、アスベルさんの真似をした、ということなのだろう。
きゅんとした。今、もの凄くきゅんとした。
可愛らしいとは思っていたけれど、想像以上だ。我慢出来なくなって、わたしは勢い良くソフィちゃんに抱き付いた。
「ありがとうソフィちゃん! わたしは大丈夫だよ!」
「なら良かった」
「あ、あーっ! シオリずるい! あたしもソフィに抱きつきたーい!」
「パスカル、だめ」
す、とパスカルに手を出してストップをかける様子もなんだかとっても可愛らしい。すごい、テンションが上がってきた!
思わずぎゅうぎゅうとソフィちゃんを抱き締めていれば、それまで静かに見ていた青年がくすくすとおかしそうに笑って、「じゃあそろそろ行こうか」とわたし達を促した。