34.少女の、まぼろし

「やれやれ、とんだ邪魔が入ったな」

剣を納めて、ようやく安心して息を吐く。
よかった。今回は怪我をあまりしなかった。みんなが……特にアスベルがそれとなくみんなを守っていたからのが理由だとはわかっているけれど、少しだけ進歩だ、と胸をなでおろす。
数度深呼吸をしてから、みんなが集まっている装置の方へと歩いた。

「この装置はどうやれば動く?」
「簡単だよ。横の所にあるのをパカパカッてやって、最後に大きいのはピコってやればいいの」
「何を言っているのかまるでわからないんだが」

良かった。あの説明がわからないのはわたしだけじゃないんだ。
この世界では常識かと思ったけど……ファンタジー要素はあれど、人間というのはどこも変わらないらしい。

「やってみればわかるって、簡単だから」

ウィンク付きで言われて、アスベルは仕方ないか、と装置に向かう。暫く装置とにらめっこしてから、思い切ったようにボタンを一つ、押してみるけれど……まあ、当然のように。中央の石版が赤く光り、その入力は受け付けないと警報を鳴らした。

「しょーがないねぇ。あたしが模範を見せますか」

じゃあ最初からパスカルがやってあげなよ、と思うけれど。恐らくパスカル的には本当に簡単で、アスベルでも出来ると本気で思っていたのだろう。自分ができるなら相手もできる、と思ってしまうのは、人間としてはよくあることだ。
それでも才能とは前知識とかは、やっぱり明確に現れるもので。彼女が軽く指を動かだけで、石板は再び広がって正常に起動した。
誰かが「……動いた」と呟いたのが聞こえる。
もう少し操作すると、わたしとパスカルが見たのと全く同じ幻……ソフィそっくりの幻がそこに浮かび上がった。

「これは……」
「わたし……?」
「これがパスカルさんの言っていたソフィの幻かい?」

うん、とパスカルと一緒にリチャードさんに頷く。
それにそっくりでしょ? と付け足しながら言えば、きょろきょろとソフィと幻とを見比べていたアスベルが、確かに、と呟いた。

「確かに……ソフィとよく似ている」
「ね? そっくりでしょ? あたしが思わずソフィを触っちゃったのも頷けるでしょ?」

本当に本物か確かめたくなっちゃう! と言いながらわきわきと手を動かしたパスカルに、ソフィはさっとアスベルの後ろに隠れた。がっくりとうなだれるパスカルには悪いが、そんなソフィは凄く可愛い。
けれどもう、みんなこのやり取りには慣れ始めていて。リチャードさんは特にそちらに目をやることはなく、ふむ、と興味深そうに幻を見つめた。

「この装置もアンマルチア族が大昔に作った物なのかい?」
「多分ね。まぁその辺は色々調べ中なんだけど」

こんな遺跡を作ったかと思えば、ホログラムみたいなものが出てくる装置まで作るなんて、アンマルチア族というのは万能だなぁ、としみじみ思ってば、装置が止まる音と共に幻も消えた。

「あーあ、消えちゃった」
「ソフィ、今の幻を見て何か思い出したりしたか?」

ううん、と首を振るソフィに、アスベルは少し悔しそうに「駄目か……」と呟く。
せっかくのソフィの手掛かりだったのに、と拳を握る彼に、リチャードさんもどこか残念そうに言葉を発した。

「ソフィと関係があるのかどうかも、あれだけでは何とも言えないね」
「説明書きとかないの?」
「あれば良かったんだけどね〜。ここんとこに書いてある文字も消えちゃってて、ほとんど読めないんだよねぇ。かろうじて読めるのがラ……ムダ……って書かれてるとこだけど、その先が……」
「ラムダ……?」

ラムダ、というと、某絶対の魔女とかギリシア文字だったっけ? と思って、すぐにここは地球じゃなかったと首を振る。
しかしそっちにイメージが固定されているせいか、聞き覚えがあるような懐かしいような微妙な心境が広がってしまって、上手く考えられない。

「ラ……ムダ……昔……どこかで……聞いたような……」
「パスカル、他はどう?」
「ん〜今の所はそれだけだね」

胸に手を当てて考えているようなソフィを見て、少しでも情報がほしいと思って問うけれど、やはりこれ以上の情報は求められないらしい。
どこか全体的にがっかりとした空気が満ちたのを感じて、リチャードさんがそれを破るように足を動かした。

「とりあえず今は先へ進もう。ここでこうして考えていてもすぐに答えは出ないだろう」