36.グレルサイドを、目指して

もうすぐグレルサイドだ、という辺りで、急にリチャードさんが膝から崩れるようにしゃがみこんだ。
転んだ、とかではないだろう。そのままうずくまってしまった彼の顔色は明らかにに悪い。慌ててアスベルが駆け寄る。

「リチャード、大丈夫か?」
「ああ……平気だよ」
「ここまで歩き続けだったし、少し休まない?」
「みんなに迷惑はかけられない」
「具合悪いのに無理しない方がいいよ。あたしらの事なら気にしなくていいから。ね、ソフィ」
「……ソフィ?」

わたしを言い訳にして休みを切り出すが、リチャードさんは首を縦には振ってくれない。パスカルもリチャードさんの事を心配してか、それとも単純にソフィと会話がしたかったのか。迷惑なんかじゃないと明るく言うが、それでもリチャードさんは大丈夫だと言って聞かない。
ソフィはそれをじっと見た後胸に手を当てて、そのまま無言でリチャードさんに近付いた。きっと、うずくまったままの彼を起こそうと、その小さな手を伸ばす。

「よせっ!」

けれど、ソフィが伸ばした手は凄い勢いで叩き落とされた。
ここまで一緒に行動していた彼の様子からは想像できないような、随分と必死な様子でソフィから距離をとるリチャードさんに、わたし達は思わず目を見開く。
でも、ソフィは一瞬悲しそうなに目を伏せただけだった。

「リチャード?」
「……あ、ああ、すまない。急だったので、つい……」

具合がまた悪くなってしまったのか、それとも、具合が悪いからこそ手を振り払ってしまったのか。それきり黙ってしまった彼に代わって、パスカルが殊更明るい声で、ソフィに大丈夫だよ! と声をかける。
リチャードさんのすぐ隣にはアスベルがいたので、わたしもソフィの両肩に手をおいた。

「ソフィ大丈夫だよ、リチャードは照れてるんだよ〜。触られて照れるなんて、ソフィの事が気になってるんだね」
「そうだよソフィ。ていうかパスカル、それだとリチャードさんはパスカルのライバルなんじゃない?」
「ラ、ライバル!? ライバルなのリチャードは!? まさかソフィ、リチャードの事を!?」

一人慌て始めるパスカルだが、ソフィは勿論、他の二人も反応を返してはくれない。ソフィもアスベルも、じっとリチャードさんを見るばかりだ。
うーん、気まずい。パスカルもちょっと困った顔をしている。

「ねぇねぇいいの? さっきまでアスベルが一番って言ってたのに、いいの!?」
「……二人とも、何か変だぞ?」
「ごめんアスベル。そして……ソフィも。僕はやはり……疲れているみたいだ……」

は、と小さく息をつく彼に、なんだか胸騒ぎがする。
言葉にしにくい、ざわざわとした予感。もしかしたら似たようなものを、ソフィも感じているかもしれない。
けれどどちらもそれを言葉にすることはなく。ただ、ただ、静かに。何かを押し込めるように。ソフィはリチャードさんを真っ直ぐに見つめて、問い掛けた。

「リチャード……リチャードとわたしは……友達?」
「……ああ。友達だとも」
「友達……」

噛み締めるように呟いて、でもなんだか暗くなってしまった空気は変わらないまま。

「……先を急ごう」

静かに、リチャードさんはそう言った。