「今は非常事態につき、許可無き者を町へ入れる事は出来ぬ」
真面目な声で言う騎士に、そう言えば似たような事を前にも聞いたなぁなんて思う。
それから、迷子になってここにきてしまった時より、その非常事態とやらは悪化しているらしい。だってあの時は町自体には入れたし。いったいバロニアで何が起きているのだろう。
今さら不安になっていれば、リチャードさんを見た騎士の一人が乗り出すようにして彼を凝視した。
「あ、貴方様はもしや、王子殿下であらせられますか?」
「し、少々お待ち下さい! 公爵様にお知らせして参ります!」
リチャードさんが頷く前に、騎士の二人は慌てて町の奥へと駆け出す。返事を待った方がいいと思うのだけれど、それだけ慌てていたのだろう。
というか。リチャードさんって、王子様だったのか。
確かにいちいちの所作が上品だなあとは思っていたけれど、それだっていいところのお坊ちゃんだったのかな、くらいしか思わない。
でも冷静になって考えてみれば、確かにシェリアが話した七年前の物語に、リチャード殿下という登場人物が出ていた。そしてアスベルと親しそうにしているリチャード、と考えれば、まあ想像できないことではない。うーん、情報があったのに気づかなかったとは、我ながら鈍いな。
しかし知らなかったのはパスカルも同じだったらしい。彼女は物珍しそうにリチャードさんを見つめた。
「へぇ〜リチャードって王子だったんだ〜偉かったんだねぇ〜」
「リチャードは王子……なら、アスベルは、何?」
「俺は……今の俺は何者なんだろうな……」
ソフィの質問に、アスベルは空を仰ぎ見る。
それに返した言葉はなんだか悲しみを帯びていて、なんだかすごく、年頃みたいで。
おもしろくなってしまって、わたしは思わず吹き出した。
「やだ二人とも。アスベルはアスベルでしょ? ソフィとリチャードさんの大事な友達の」
「!」
それだけでも十分に何者かになれているでしょ、と笑えば、アスベルが驚いたようにこっちを見た。
自分が何者か、なんてアスベルくらいの年だとよく考える事だけど、その答えなんて結局出ない。自分は自分にしかなれない。憧れのものがあるならそれに近付けるように努力するしかないし、何も見つからないなら、せめて自分の現在をよく見つめるしかない。
そうしてその時に、大切に思っていてくれる誰かとの繋がりを見つめ直すのが一番だって、わたしは思う。わたしが大好きな人たち。わたしの大好きなもの。それを大好きだって思うわたし。それこそ、わたしがわたしであることを証明するものだ。
……なんて、ちょっと、かっこつけた言葉かもしれないけれど。リチャードさんもソフィも、そうだね、と頷いてくれた。
「そうだね。アスベルは僕達の大切な友達だ」
「そっか。アスベルは大切な友達」
うんうん、と胸に手を当てて何度も頷くソフィに、アスベルが照れくさそうに笑っていると、奥から騎士が走って来るのが見える。
騎士はリチャードさんの前で敬礼をすると、デール様がお待ちです、と言った。
「お待たせ致しました。どうぞお通り下さいませ!」
「ありがとう。デールは屋敷にいるのかな?」
「はっ!」
「聞いての通りだアスベル。まずはデールの下へ行って状況を確認しよう」