38.集めて、カルタ

「難しい話乙! って感じだよねぇ、まったく」

リチャードさんたちの目的地であるデール公の屋敷についたのはいいものの。なんだか王位継承がどうたらこうたら、逆賊がうんぬんかんぬん。難しい話が始まりそうなのを感じて、わたしは一人屋敷を探検することにした。
別に逃げたわけじゃない。面倒だったとか、そういうことでもない。わたしはほら、この世界においてはどうしても部外者で世界情勢なんてものもよくわからないし、戦いにおける知識なんてものもないので、あそこにいたところでなんの力にもなれない、という自覚があっての行動だ。うんうん、逃げじゃないです。
屋敷の裏口から出て、誰にともなくそう言い訳をして、よく整備された庭を歩く。この場所からは海……というか海のように広い湖であるグレイユ湖がよく見えた。日差しでキラキラと反射する水面がとても綺麗で、ほっと力が抜けるような気がして、気持ちいい。

「……ここの水は綺麗だなぁ。ん?」

ふと、風に乗ってひらりと一枚の紙が飛んできた。
拾ってみると、それはカードのような形をしていて、赤毛のツインテールに気の強そうな目が印象的な女性と、何かセリフのような文章が描かれている。

「ルーの事、イチバン?」
「ふっふっふっ……拾ってしまいましたか」

わざと低くしたらしい女性の声がして、さっと顔を上げる。
そこにいたのは一人のメイドさん。彼女は懐からわたしが持っているのと同じような紙を取り出すと、いかにもお化け屋敷で聞きそうな言葉を喋り始めた。

「いちま〜い、にま〜い……仕事サボって魔法カルタを数えているのはそう、私です!」
「魔法……カルタ?」
「はい。英雄達の名言をカルタにしたものです。ダブったの差し上げますから、サボってたの、内緒にしてくださいね?」
「麗しいメイドさんの頼みなら」

自分的決め顔で頷いて、さり気なくメイドさんの手を握る。
なんだかよくわからないけれど、こんな可愛らしいメイドさんの頼みだというなら聞くしかない。ここには本当に美男美女がたくさんいて、いつも心はうきうきだ。
どうして異世界トリップなんて、と思ったことは何度もあるけれど。でもその度に、こうして生メイドさんや騎士や麗しいお姉さまやらおじい様やらに出会えたことを思えば。この世界にトリップしたのも悪くないような気がした。