40.剣と風の導きを

「勇敢なる兵士諸君! これより我々はリチャード殿下に付き添い王都へ向かう」
「これはウィンドル王国を取り戻す為の正義の戦いだ。兵士諸君の奮闘を期待する! 剣と風の導きを!」
「「「剣と風の導きを!」」」

晴れ渡った空に、兵士達の声が高らかに響く。足を揃えて進み出した彼らの鎧の音に、無意識に体が強張るのがわかった。
テレビとか動画の向こうで見るなら、格好いいな、とでも思えたかもしれないけれど。今のわたしは、この音がこれから戦いが始まるから聞こえるものだと理解しているし、その戦いに自分も身を投じるのだと思うと、そんなのんきなことを考えてなどいられない。

「それでは僕達も侵入作戦を開始しよう」
「殿下の事をくれぐれも頼むぞ。アスベル・ラント君」
「はっかしこまりました!」
「まずはあの遺跡に戻ろう。そこから上の砦を目指すんだ!」

リチャードとアスベルとデール公の会話を聞きながら、ゆっくりと深呼吸。そうでもしないと不安で体が震えそうなのだ。
何せわたしはあくまで一般人。傷の治りが早いだけで非常に弱弱しい一般人。でも怪我してもすぐ治るし、と思って、ついつい首を突っ込んでしまって……こうなったわけだけど。
それでもやっぱり一般人なのだ。喧嘩だって、口喧嘩ですらあまりしたことがない。本気の戦いというものを経験したこともないから、どうしたって不安は残る。
大丈夫だろうか。ちゃんとみんなに迷惑かけないでいられるだろうか。

「シオリ、大丈夫か?」
「え?」

突然アスベルに肩を叩かれて、びっくりして肩が跳ねる。ちょっと驚きすぎたかもしれない。お互いにきょとんとしてしまえば、やがてアスベルが困ったように頬をかいた。

「あ、いや……シオリは一般人だからな。こういうの慣れないだろ。無理してるんじゃないかって……」

……わたしはそんなにわかりやすかっただろうか?
彼の言う通り、とっても不安、だったけれど。それをみんなに知られてしまわないようにと、自分では上手にポーカーフェイスをすることができているつもりだったのだけれど。もしかして、まったくできていなかったりするのだろうか。
それは、ちょっと、恥ずかしいかも。ごまかすように苦笑してから、どうしたものかなと思う。ばれちゃったのなら、もういっそ開き直って、不安だと、泣きそうだと、戦いたくないと言ってしまいたいけれど。でもわたしの方が年上だし、人手不足だから手伝ってほしいと言われて断れる性格でもない。
だから大丈夫、と答えようとしたところで、どすん、と腰辺りに軽い衝撃がきた、見ればひょっこりとソフィが顔を出すので、どうやら彼女に抱き着かれたらしいと理解する。

「大丈夫。シオリはわたしが守る」

そう、自信満々に言うソフィに、思わずキュンと胸が高鳴る。
なんだ、この可愛くてかっこいい生き物。最高すぎる。
あまりにも単純。けれど確かに、わたしの中にあった不安がさっと消えていくのを感じて、わたしもぎゅうとソフィを抱きしめ返した。

「……不安じゃないと言えば嘘になるけど……大丈夫だよ。ソフィが守ってくれるみたいだし。ね、ソフィ」
「うん。みんな守る」
「ありがとうねアスベル」
「あ、ああ……」

それにアスベルは、ソフィとリチャードを守るのでせいいっぱいのはずだ。これ以上足を引っ張るわけにはいかないし、頑張ろう。そう心の中で呟いて、わたしはソフィと一緒に少し先を歩くパスカルとリチャードの元へ急いだ。
後ろで「俺だって、シオリの事をまもるのに」と呟いた事には、気付かなかった。