ガコン、と音をたててレバーが動き、南橋が落ちる。
暫くして聞こえてきた声に、パスカルが嬉しそうに笑った。
「歓声が聞こえるよ。上手くいったみたいだね」
「僕達の役目は終わった。後は兵達の働きに期待しよう」
うん、と頷いてその部屋から出る。目的は達した。あとは本職の騎士の皆さんの役目だ。
……そう安心して歩きだしたところで、びゅんびゅんと風を切る音と共に、ブーメランのような刃がわたし達を包囲するように飛んできて足を止める。
その形には見覚えがあった。
「ひゃあ! な、なに? なんなの!?」
「この武器って……!」
「物事は完全に終わるまで油断してはならない。オレはそう教えていたはずだ」
耳に落ち着く低い声が聞こえてきたと同時に、スタッと目の前に影が落ちる。
登場の仕方といい、相変わらずの渋かっこよさを持つその影の招待はそう、マリクさんだ。
マリクさんは目を細めてわたし達を……リチャードとアスベルを見る。
「マリク教官!」
「少人数で砦の中に侵入し、門を開けて味方を引き入れる。そこまでの手順は見事だった。だが最後の詰めが甘い。ここでオレがお前達を倒せば、戦況は一気に逆転する。そうですね? リチャード殿下」
「僕が誰か知って尚、刃を向けるつもりか」
「それが私の今の仕事です。騎士団は新国王陛下の下に入りましたので」
「殿下に敵対するつもりなら、例え教官といえど戦うしかありません」
「……それでいいアスベル。ならばお前達の全力をもってオレを止めてみせろ!」
それを合図に、マリクさんと数人の兵士が突撃してきた。
戦闘だ。見知った人に武器を向けられるのは気が滅入るが、負けるわけにもいかない。すぐにこちらも武器を構えた。
「アサルトサイン!」
「封翼衝!」
パスカルが描いた陣術内にいたアスベルが勢い良く剣を振り下ろす。陣術の効果で強まった彼の力が、兵士の一人をあっさりと昏倒させた。
でもそれくらいでは戦いは終わらない。すぐにマリクさんが炎の術で攻撃してくる。
「炎って奴は情熱だ!」
「やぁっ星流!」
わたしはマリクさんが出した炎の塊が爆ぜる前に、二つの剣を順番に回転するようにしてぶつけることで相殺してみせた。よかった。ソフィに習っておいたものが実践でもできた。
気が抜いてしまいそうになるのをぐっとこらえて、相手から目をそらさないようにしていれば、マリクさんは少しだけ眉をひそめる。
「シオリ、お前何故王都に戻らなかった?」
「迷子になって帰れなくなりました!」
「まよ……この馬鹿! 其は耐え無き息吹! フォトンブレイズ!」
「ひゃっ!」
目の前で爆ぜたそれにびっくりして尻餅をつく。グキリと捻った足首に思わず顔をしかめるけれど、どうせすぐに治るから、わたしは無理やり立ち上がった。
「シオリ! ファーストエイド!」
「っありがとうソフィ!」
「来たれ安息なき剣、連なるは悲痛! レストレスソード!」
リチャードが放った妖術の剣が残りの兵士を凪ぎ払う。
でも術後のわずかな硬直を狙ってマリクさんが輝術を放つのを見て、体が勝手に動いた。
「リチャード危ない! 星葬!」
「くっすまない!」
「シオリ、お前は下がれ! 旋狼牙!」
リチャードを突き飛ばして横向きに振り下ろした剣は、やっぱり相手には届かない。けれどアスベルがわたしを庇うように飛び出したから、わたしたちに向かっていた兵士はそのまま彼の剣で吹き飛ばされた。
残るはマリクさんだけだ。わたしは彼と十分に距離が取れていることを確認して、大きく深呼吸をした。
今までリチャードに術を教わった成果を見せる時だ。
目の前で剣を重ねて目を閉じる。
大きく息を吐いて、それからイメージする。風を。
そして声を張り上げた。
「疾風、其は猛き竜翼の暴風、螺旋せし運命切り裂く竜王の光! ……クロスウィンド!」
声と共に風が集まり、いくつもの竜巻を起こしてそれを中心に向けて放つ。
中心にいたマリクさんはそれに一瞬体勢を崩して、そしてアスベルの蹴りを食らってそのまま膝をついた。