47.もやもや、もやもや

「リチャード、大丈夫かなぁ? なんか魔物いっぱいいるけど……」

隠し通路というだけあって薄暗い道を通りながら、ふとそう呟いてみる。
恐らくリチャードも通ったであろうこの抜け道だが、布被った幽霊みたいな魔物が沢山いて、安全だとは言いにくい。さすがに彼の護衛として部下達がいるのだろうが、それでもやっぱり心配だった。

「どうだろうな。とにかく追いかけるしかないだろ」
「リチャード殿下も呼び捨て……」

ぼそり、とシェリアが何か呟いたがよく聞こえない。
どことなく不機嫌な空気を感じて、さっきパスカルが持ち出した騎士学校時代の話題をまだ引きずってるんだろうかと、繋いだままだった手に少しだけ力をいれた。

「シオリ、リチャードの心配ばっかり」
「え?」

突然そんなことを言い出したソフィに、わたしはきょとんとまばたきをする。
そんなにリチャードの心配ばかりしていただろうか。どちらかというとそれはアスベルの方で、わたしはそこまででもなかった、と思うのだけれど。

「この前も、リチャードを守って怪我してた」
「そりゃ、そのためについてきたんだし……え? なんでそこでアスベルまでテンション下げるの?」
「いや、別に下げてなんか。ただ、俺とは違ってすんなり呼び捨てにしたみたいだったって思ってさ」

いや、それは、まあ、そうなんだけど。アスベルの方は確かに、呼び捨てになるまでが長かったから、友人として微妙な心境なのだろうとわかる。事実、アスベル以外のみんなは比較的すぐに呼び捨てにしたのだから、気にする気持ちもわかるけれど。
それにしても、急にそんな事を言い始めた二人に、思わず首を傾げてしまう。前回のそこまで大きくない怪我のことまで持ち出してくるし、何がそんなに気になっているのだろう。
悶々と悩んでいれば、「だからさ〜」とパスカルがひょっこりと身を乗り出した。

「ようするに、みんなヤキモチ妬いてんだよ。シオリがリチャードばっか贔屓にするからさ〜」
「なっ」
「ち、違うわよ。リチャード殿下にヤキモチなんて妬いてなんてないわ」
「そっかヤキモチか。何それ可愛い」
「違うったら!」

速攻で反応したのが印だよね、と少し嬉しく感じながら言えば、シェリアは顔を赤くして否定してくる。
そうかヤキモチか。なるほどね。確かにそう考えれば彼らの反応も納得できる。
なんだか嬉しいなぁ。そこまでわたしのこと、好きって思ってくれるんだ。わたしも、もっとみんなのこと、好きになっちゃうな。

「シオリがリチャードの話をして胸がモヤモヤするのは、ヤキモチ?」
「そうだよ〜ヤキモチだよ〜。ソフィはシオリが大好きなんだね〜。ね、あたしは?」
「そっか、ヤキモチか」
「あ〜んソフィ〜。そこで無視しないでよ〜」

ソフィとパスカルの関係は相変わらずのようである。
ふふ、とほほえましく眺めてから、わたしはアスベルに振り向いた。

「ということで、大丈夫だよ。わたしみんなが大好きだもん。贔屓なんてしてないよ。ただリチャードは守ってやらねばなるまい〜って思っただけ」
「……だからって、それで怪我をされたくないんだ」

暗い表情で言うアスベルに、それでもわたしは笑った。
どうにもみんな過保護だ。そんなに心配しなくても危ない事はしないし、怪我だってすぐ治る。
大体わたしはパスカルと同い年だと言う事をちゃんと理解してるのだろうか。

「みんな過保護だなぁ。わたしが保護する側のはずなのに……じゃあはい、アスベルも手出して? 繋いだら安心でしょ?」
「ちょっシオリ!?」

ほれ、とシェリアと繋いでいない方の手を出すと、何故かシェリアが慌てたように声を上げた。

「え、シェリアなんで怒るの?」
「別に、怒ってなんか……」
「あ、シェリアがアスベルと繋ぎたかった? なら、わたしはソフィと……」
「違うわよ!」

どないすればええねん、思わず苦笑すれば、黙っていたアスベルがギュッとわたしの手を握る。
見れば、少しだけ照れ臭そうにしている顔をしているのが見えて、今更ながら恥ずかしくなった。