6.知らない、始まり

「マリクさん!」

集落の中央辺りで騎士と人達と話している姿を見つけて、わたしは自分でも珍しく感じる程大声を出した。

「どうした? シオリ」
「あ、あの、今、アスベルさんが向こうで魔物に襲われて、いて……攻撃が、あまり効かないらしくて」

わたしの言葉にマリクさんと騎士の人たちは一度顔を見合わせてから、「わかった、すぐに行こう。」と返事をしてすぐに準備をする。
それに安心して、でも彼らをアスベルさんの元へ連れて行かなければと、逃げ出したがる足を叱咤して再び彼の元へと再び走り出した。

……そして、わたし達が着いた時には、丁度アスベルさんが魔物を倒したところだった。
魔物の傍に立つアスベルさんを見る限り、特に怪我はしていなさそうだ。それでも慌てて駆けよれば、アスベルさんはわたしを見てほっとした顔になる。

「良かった。シオリは無事だな」
「いやいやいや、わたしよりアスベルさんだから! アスベルさんは大丈夫? 怪我してない? 生きてる?」

体をあちこち軽く叩きながら本当に怪我が無いか確かめる。少なくとも痛がる様子はないみたいだし、見た目通り怪我はないようだ。
ほっと息を吐けば、何故かぷすりと音を立てて笑われた。
心配してるのに、と悔しい事にわたしより背の高い彼を睨めば、笑いながらぽんぽんと頭を撫でられる。

「大袈裟だな。……大丈夫だ、なんとかなったよ」
「そっか……なら良いんだ」

その言葉に嘘は無いみたいだから、大人しく手を受け入れる。
なんだか、気恥ずかしいがどこか暖かいような気分になって手を振り払えないでいれば、魔物の死体を確認していたマリクさんと騎士達が真面目な声でアスベルさんに問いかけた。
それに、わたしから手を離して敬礼をしながら答える。

「こいつはお前がやったのか?」
「はっ。突然襲われたため、撃退しました」
「マリク教官、コイツが集団失踪の元凶でしょうか?」
「そうかもしれんな。村の周囲の様子を調べたところ、野獣が暴れた痕跡が見つかった。お前が戦ったコイツがその野獣だった可能性もある。詳しく調べないとわからないがな」

こんな魔物が集落を襲ったのか……とその時の事を想像してみて、わたしは思わず顔をしかめた。
ゲームなんかでよくある展開だが、それが起こった場所をこんなに身近に感じる事なんて当然初めてで、どんなかおをしていればいいのかわからない。会話に参加することもできず、やめておけばいいのに、ちらと魔物の方に視線を向けて、その姿をまじまじと見た。

「ありがとうございました教官。ここから先の調査は我々だけでなんとかなりそうです」
「わかった。聞いたなアスベル。オレ達はここまででいいらしい」
「アスベル・ラント君。君の協力に感謝する」
「はっ。お役に立てたなら光栄です」

じっと、魔物を見ていると、騎士の会話が、どこか遠くに離れていくような気がする。
何故だろう。目が離せない。その魔物はもう動かないとわかってるからか、恐怖などは感じない。でも、目を離すことが許されない。
どうしてなのだろう、わたしはこの子のこと、本当は。

「実地任務もこれで終わりだな。シオリ」
「っはい?」
「オレ達も王都へ戻るぞ」
「あ、はーい……」
急に名前を呼ばれて、わたしは慌てて意識を引き戻す。なんとか目を離せば、あんなにわたしを引き寄せていた魔物から感じる者もはあっさりと消えていった。
それに安心して、わたしはまた二人の後を追って歩き始めた。

……きっと、この時から“始まっていた”のだと、そう気付いたのは、それから随分と後の話である。