雨が降っていた。
ひどい雨が、降っていた。
その雨の感触だけが、今のわたしに感じられるすべてで、雨の中に溶けてしまいそうな自分の意識が、なんだかひどく恐ろしくて。
だから、だからわたしは。
その声を、聞いたんだ。
「シオリ、しっかり!」
「ん……?」
誰かがわたしを呼んでいるような気がして、やけに重かった目蓋をなんとか開ける。
長く目を閉じていたのだろうか。寝起き特有のあのぼんやりとした心地で見た世界は、なんだかとても眩しい。そこにある光は、ロウソクの灯りだけなのに。まるで初めて光を見たみたいに再び目を閉じて、今度はゆっくり、ゆっくりと、目を開く。
そうすれば、自分の名前を呼んでいたのがパスカルだとわかって。わたしの手を握るアスベルの手が見えて。ホッとしたようにわたしを見て頬を緩めるソフィと視線があった。
「あれ、わたし……?」
「シオリ!」
「うわっ!?」
起き上がる前に、ガバリと勢い良くシェリアに抱きつかれて、一体どうしたんだと目を白黒させる。
だが、僅かに震えている体に気付いて、問いかける事を止めて、とりあえずその体を抱きしめ返した。
「良かった……シオリ、良かった……」
「シェリア……」
そうだ、わたしはリチャードを切りかかろうとした騎士から守ろうとして……それで、たぶん、気を失ったのだ。もう痛みを感じないし、さっさと治ったのだろう。シェリアも治癒術をかけてくれたに違いない。
リチャードは無事だっただろうかと視線をやれば、少し離れたところで、彼は申し訳なさそうな顔をしてそこに立っていた。見たところ怪我は見当たらない。きっとアスベルが守ったのだろう。
「すまないシオリ。僕のせいで……」
「大丈夫だよリチャード。それよりリチャードは?」
「僕は何ともない」
「そっか。なら良かった」
「良かった……?」
ふふ、と笑うと、ポツリと呟く声がした。
それは、先ほどからずっとわたしの手を握ったまま、ずっと沈黙していたアスベルの声だ。うつむいた彼の表情はわからない。ただ、僅かに彼の肩が震えているのがわかる。
そして勢い良く顔を上げると、普段からは考えられない程の怒気をはらんだ声をあげた。
「何も良くないだろう、このバカ!」