51.中途半端では、いられない

王城地下を抜けて、城の中に入る。
絵本やゲームでみる城のイメージのままの内部は、赤い絨毯なんかもひかれていて豪華だ。普段ならそこで感激の声くらいあげるのだが……どうにも、会話しにくい。

なにせずっと、アスベルとわたしの間にある空気が悪い。シェリアとアスベルと一緒にラントに行った時よりずっと空気が重たい。あの時もなんだか二人とも気まずいな〜と思っていたけれど、どちらもわたしとは普通に会話してくれたので、正直そこまで気にならなかったのだけれど……あの時のんきだった報いが今来ているらしい。
自分が悪いのはわかっている。心配をかけるようなことばかりをしていたのだから、こうして愛想をつかれてしまったのだ。
あやまったって、意味がない。ううん、謝罪自体はしたうえで、この状態なのだから、これはもう、アスベルの気持ちが落ち着くまでは何を言っても意味がないだろう。そしてその間にまた同じようなことをしたら余計に溝が深まる。つまりわたしはおとなしくしているしかない。
でも、こうも自分に対してだけピリピリしたものを感じると息苦しくて仕方ない。

「シオリ。大丈夫?」

思わずため息をついてしまうと、ソフィがひょっこりとわたしの顔を覗いてきた。
戦闘後だというのに相変わらずの表情だが、その目にわたしへの心配の色があるのを見て、彼女も随分と感情が出て来たな、と思う。わたしは笑って首を降った。

「何ともないよ。大丈夫だよソフィ。どうしたのさ急に」
「シオリが怪我したり悲しい顔をすると、なんだか胸が苦しくなる。それはシェリアもパスカルもリチャードも、アスベルも同じ。だから、聞きたくなった」

胸に手を当てて、その感情を大事にするように喋るソフィに、なんだか申し訳なくなる。
それと同時に、疑問。ずっとずっと気になっていた、疑問。

「……わたし、そんなに無茶ばっかりやってるかな」

言うつもりはなかったのに、ついポロリと言葉が零れてしまう。
自分で考えなきゃいけないのに、つい喋ってしまった。
気付いても、もう言葉は止まらない。一度落ちてしまった言葉は、そのまま次の言葉を引きずり出して落ちていく。

「ここにいなきゃいけないと思ったからいて、それで迷惑かけないように頑張ってたつもりだったんだけど……ダメだったかな」

頑張っているだけ、のつもりだった。
わたし、できることなんて他にないから。せめて好きだって思った人たちの役に立ちたくて、できそうなことを頑張っていただけ。わたしはそれを無茶だなんて思っていなかった。
いなかったけれど。それを見て、あんなに心配してくれる人がいるなんて思わなくて。だから、どうすればいいのかな、って、わからなくなる。
思わず俯いてしまうと、頭をぽん、と軽く撫でられた。それはソフィの手だ。
彼女はわたしを見つめていて、だからわたしも彼女を見つめる。
しばらく無言が続いたが、それは決して、居心地の悪い沈黙では無かった。

「……ソフィ」
「シオリの事、守る」
「……うん。じゃあわたしも、強くなったらソフィを守ってもいい?」
「うん。わたしがシオリを守って、シオリがわたしを守る」

ふふ、と笑う。
……きっと、わたしはこの先も、アスベルが言うところの無茶をしてしまうのだろう。だって、それ以外にできることが、今もわからないから。でも、わたしはきっと中途半端に守ろうとしてもがいているだけだったのは悪かった。
だから、わたしはちゃんと、誰を守りたいのかを決めて。誰を守るために何をするのかを考えて、心配をかけないように、今度こそ。

「ありがとう、ソフィ」