城の騎士達を避けながらしばらく歩くと、廊下のど真ん中で立ちふさがるように立つ女性の姿が見えた。
槍を持って立つ姿はカッコいい……というか、眼鏡な所も美人なその人を、わたしは見覚えがある。
「ヴィクトリア教官!? どうしてここに?」
「あ、剣をくれたお美しいお姉様だ」
剣に触れながら言えば、ヴィクトリアさんは微かに笑ったようだった。
しかしすぐに目を鋭く細めてアスベルを見据える。
「もう気付いているのでしょう? 今は教官ではないわ」
「叔父の親衛隊か」
「そっちはよくわかってるじゃない」
忌々しそうに彼女を睨んだリチャードに、だがヴィクトリアさんは余裕を持って微笑んでみせた。
つまり、彼女は今、教官という立場ではなく、リチャードの敵としてここに立っているのだ。彼女がどちらの王位継承者を推しているのかはわからないけれど、マリクさんも同じように敵対してきたし、騎士団は現在王位についているセルディク大公の味方をするしかないらしい。
「お前は退きなさい、アスベル」
「退けません!」
お前は元とは言えこちら側の人間でしょう? と言外に込めた台詞に、だがアスベルは確固たる意志を持ってそれを断る。
その姿勢が本気であることに、ヴィクトリアさんはため息をつきながら眼鏡を直して……そして持っていた槍を構えた。
「そう。それならしかたないわ……メテオクラッシュ!」
「くっ!」
地面を大きくえぐるように槍を強く切り上げて、そのまま流れる様に蹴りを繰り広げる。横凪ぎにした攻撃を防いで、アスベルは軽い動きで彼女との距離を詰めた。
それから二度三度と帯刀したまま剣を振るうが、ヴィクトリアさんはマリクさんと違って術を使うような後衛タイプではない。見事な槍捌きでそれを防いでいく。
「みっどりの〜トゲトゲ!」
「ビュンビュンボフワー!」
パスカルのウィンドニードルにわたしのクロスウィンドを重ねて、ヴィクトリアさんに向けて放つ。
それで一瞬体勢を崩した彼女は、アスベルとリチャードの連撃から逃れようと大きく後ろに飛びながら、まずは術師を抑えようとシェリアへと向かって走った。
「させない! 仁麗閃!」
「秋沙雨!」
すかさずソフィが遮り、リチャードが追撃する。
わたしも行こうとして……止めた。大人しくそこに立ち止まって、パスカルから教わった術の詠唱を始める。
その代わり、シェリアの神聖術がヴィクトリアさんの体を捕らえた。
「この名を以ちて戒めを刻め! フラッシュティア!」
「くっ甘いわ……!」
「……凍牙、其は猛き蒼姫の氷刃、永劫凍てつく世界が見し終焉の光! クロスフリージスト!」
「ひゃあっ!」
わたしを中心として相手が術範囲内に入ったところで、渦巻くように氷の飛礫を発動させる。
シェリアの神聖術で足止めされていたヴィクトリアさんは簡単に巻き込まれた。
「ヴィクトリア教官、どいてもらいます!」
そして、アスベルがトドメとばかりに剣を振るった。
「……それでいいのよ。貴方は貴方の道を進みなさい」
そう呟いたヴィクトリアさんは、セルディク大公の親衛隊とかじゃなくて……アスベルの、先生だった。