「ヒューバートっていうストラタ? で暮らしている弟さんが、アスベルを追い出して今ラントを占領してるんだ」
それで、ラントから出ている輝石の流通が滞ってしまってウィンドルは困ってしまっている。ついでに言うと、いくらラント家の次男だとしても今はストラタの人間。これは実質ストラタに介入されているのではないか、外交問題なのではないか、という疑いも出ているらしい。だからこそ、そのヒューバートさんには王都で開かれる会議に出て、今後について話し合わせてほしい、と説得することが、今回ラントに行く理由らしい。
ちなみに輝石は、地球でいう電気とかガスとかと同じような働きをしているものらしい。土地によって違う属性の輝石があるのだとかなんとか。さすがにちょっと、今の一回で全部を理解することはできなかった。
「ヒューバートが私に救護組織を提案してくれたのよ。でも驚いた。ストラタを知らないなんて」
「シオリは記憶に欠落があるようだからな。……ストラタの関係者の可能性もあったが、違ったようだな。どうだ、アスベル達と過ごして何か思い出したか?」
「思い出すどころか新しく知る事ばかりで……」
あはは、と曖昧に笑う。
そういえば、まだ自分が異世界から来たという事を誰にも話していないのだった。タイミングとしては、騎士学校に到着した時が一番話しやすいタイミングだったのだけれど、そんな余裕のないままラントに移動することになったし。それ以降はバタバタして、とてもわたしの個人的事情を話すタイミングなどなかった。
それに、自分自身いろいろと整理したかったのと、来たキッカケがわからない不気味さから考えないようにしていたせいで、ちょっと忘れていた、というのも本音である。
どうしよう。でも今ここで「実はわたし異世界から来たんですよ〜」とか言うのはちょっとおかしい。とても言えそうにない。
……と、会話を楽しんでいて気付くのだが、バロニアを出てから一度もアスベルと会話が無い。
それはもう「シオリとなんて会話するもんか」と言われているくらいに会話が無い。
さり気なく避けられているのに、魔物と戦闘になるとちゃんと守ってくれる。これはみんなに対してだけど……うん、なのに会話が無いというのは、実に気まずいものである。
なんでこんなにアスベルとはすれ違っちゃうんだろ……と泣きたくなりながら、わたしは思い切って……でもちょっと腰が引けちゃった結果、おずおずと、前を歩くアスベルの隣まで歩いて、話しかけた。
「あ、のさ、アスベル」
「、なんだ?」
「わたし、結構アスベルの事好きみたいなんだよね」
「は!?」
言った途端、何故か後ろのシェリアから声が上がる。
気になったが、わたしは勢いを無くさないように今はそれをスルーした。丁度マリクさんとパスカルからシェリアの相手になっているみたいだし。ごめんシェリア。
「だからさ、その……あんまり戦闘中に前に出たりしないようにするし、無意識だからわかんないけど色々気を付けるから、その……ちゃんとお話、したいよ」
素直に、そう伝える。
最後は思わず目を逸らしてしまったが……不意にぽん、と、頭を撫でられた。
見れば、少し照れたような……でもちゃんといつもの優しい笑顔を浮かべているアスベルが視界に映る。
「……大丈夫だ。俺も、その、少し言い過ぎたよ」
「いやいやっわたしが悪いからさ!」
「いや、だってお前泣きそうだったじゃないか。あんな顔させてすまなかった」
「何言ってんの君の方が泣きそうだったじゃん。本当にごめん」
「いやいや……」
「いちゃいちゃするのはいいけどさぁ、門が閉じられてるよ?」
「「!?」」
パスカルの声に、バッと勢い良く距離をとる。
二人とも顔は真っ赤。なんかデジャヴ。
「頼めば開けてくれるわ。私はいつもそうしていたもの」
「彼らはアスベルの正体を知っているのではないか?不用意に近付くのは避けるべきだ」
「アスベル、門を通らずに街の中に入る方法ってないの?」
照れくさくなって落ち着こうと頑張っていたわたし達だったが、パスカルが投げかけてきた質問でアスベルは落ち着いたらしい。
少し悩んで、そうだ、と手を叩いた。
「門を通らずに……そうだ、水路を伝っていけばきっと……」
「よし、じゃあそうしようか!」
近くの小さな坂を下って水路に向かう。
川……というか、池のようになっているそこにはキラキラとした物……後で聞いたら、それは輝石の欠片らしい……が浮かんでいる。
「あ、シオリ」
輝石の欠片を見ていれば、不意にアスベルに呼び止められた。
何?と言葉にせず首を傾げて立ち止まれば、彼は柔らかく笑う。
「俺も、結構シオリの事好きだよ」
それだけ。
それだけを言ったら、わたしを追い抜いて歩き出した。
「……え、ちょ、あれ?」
真っ赤になった理由もバクバクと鳴る心臓の理由もなんだか知りたくなくて、とにかくわたしは心の中で叫んだ。
なんてやつだ!