58.再び、ラントで

ラント領ってざる警備なんだな、と。物凄く簡単に屋敷まで入れて実感する。これ、いつでも泥棒とか強盗とか入れちゃうよ。いいの? こんな警備で。
心配しながら屋敷に入って、迷わず応接間に行く。中に入れば、そこには眼鏡をした、青い軍服を着た青年が立っていた。
彼がヒューバートさんだろうか? 髪の色は青くてアスベルのそれとは正反対の色だけれど、つり気味の目は確かにアスベルと同じ綺麗な青い色をしている。

「これは……予想外の来客ですね。面会の約束をした覚えはありませんが?」
「ヒューバート、話があって来た。無条件に勧告を受けいれろとは言わない。だがせめて、交渉の席についてもらえないか? このままでは輝石の流通が滞り、ウィンドル国民の生活に深刻な影響が出るんだ。頼む、ヒューバート」

頭を下げるアスベルに、だがヒューバートさんは冷ややかな視線を向けたまま立ち上がった。
ちゃき、と静かに眼鏡を押し戻して、視線と同じくらい冷ややかな声を出す。

「新国王陛下は、あなたを遣わせばぼくが撤退勧告に応じるとでも思ったのでしょうか?」
「俺がここにやってきたのは自分で志願したからだ」
「だとしたら、あなたの見通しは甘すぎますね」

ふと、外がガヤガヤと騒がしい事に気付いた。
だがそれは決して“賑やか”ではなく、もっと混乱を示すような騒がしさだ。
思わず隣にいたソフィと顔を合わせると、バタバタと音を立てて眼鏡の……肩まである髪をした男の軍人が入ってきた。

「少佐! 緊急事態です! ウィンドル軍が突然攻めてきました! ウィンドル軍の勢いは凄まじく、味方は既に市街地まで押し込まれています!」
「なんだって?」
「一体どうなってんの? 戦争になるのを止める為にここへ来たんじゃなかった!?」

軍人の報告に戸惑った声をあげるパスカルに、だがヒューバートさんは呆れと焦りを含んだ声を出した。
その表情からはイマイチ感情が読めない。

「なるほどそういう事でしたか。ぼくを説得するふりをして軍勢を引き入れていたとはね」
「違う! 俺はそんなつもりじゃ!」
「ここまでバカにされると、いっそ小気味良いくらいですよ。全軍に第三種迎撃体制を指示! なんとしても持ちこたえろ!」
「はっ!」
「ヒューバート信じてくれ! 俺は何も知らなかったんだ!」
「それが本当だとしたら、あなたは惨めな使い捨てのコマに過ぎないという事ですよ」

それだけを言い捨てて出て行った弟に、兄はがっくりとうなだれた。