59.軋む、友情

わたしたちも状況を把握しなくては、と外に出たけれど、わたしはすぐに目を逸らしたくなった。
何せ領内はパニックだ。ウィンドル兵とストラタ兵がぶつかり合うのと、ラントの人々が逃げるのが同じ場所で行われるものだから、ごちゃごちゃしている。
当然、被害に合う人だっていて、怪我をして、剣戦の音に混じって悲鳴だって聞こえてくる。屋敷の中庭で思わず足を止めてしまった。

「弟君を説得できたかい?」

そう言いながら、リチャードがゆったりとした足取りで歩いて来る。
どこか優雅ささえ感じる足取りに、アスベルはグッと息をつまらせた。

「どうやら様子を見に来て正解だったみたいだね」
「リチャード、どうしてこんなことを!?」
「既に伝えてあったろう? ラントを攻めると。それにこれは君の為の戦いでもある。故郷を取り戻してあげると約束したじゃないか」
「俺はこんなことを頼んではいない!」
「君が頼まなくてもラント侵攻は実行したよ。僕に逆らう者は容赦しない。思い知らせてあげないとね」

そう笑うリチャードは、なんだか初めて会った時と随分変わってしまったような気がする。
わたしでさえ感じるのだから、みんな思っているのだろう。アスベルは悲しそうにそれを指摘した。

「リチャード……最近のお前は何かというとそればかりだ。……今のお前のやり方は間違ってる!」
「どうやらラントを攻め落とす前に君と話をつける必要がありそうだね」

聞く耳持たず、か。
剣をスラリと抜いたリチャードに、わたしは呆れを込めてため息をつく。
同様にリチャードを睨んでいたアスベルは、ふとシェリアに小さな声で喋り始めた。

「シェリア、シオリやみんなを連れて街の人々を安全な場所に誘導してもらえないか。俺が話している間に早く! 戦いが本格化してからでは遅い」
「……わかったわ。シオリ、ソフィ、行きましょう」
「うん……」
「……ここに残る」
「いいから、行きましょう」

手を引くシェリアに素直に頷いて、ソフィの手をとる。
ソフィは二人の友達のことが心配だったのか、いやいやと首をふるけれど、彼女をパスカルと三人掛かりで持ち上げて連れて行った。
残るのはリチャードとアスベル、そしてヒューバートさんだけだ。

「アスベル……アスベルーっ!」

……その事に。ソフィが彼のそばにいないことに。
わたしは何故か、安心した。