61.彼女を、追いかけて

「えーと、包帯を巻いて……あれ、うまくいかない?」
「シオリさん、もっとキツくやらないと」
「こうか」
「痛い痛い!」
「あ、ごめんなさい!」

ウィンドル軍が撤退した後。
ソフィが七年前のソフィ本人だと判明した後。
わたし達は、ラントに留まっていた。
アスベル達が外の様子を見に行っている間にシェリアの手伝いで、バリーさんに指示を貰いながらたどたどしく包帯を巻いていく。
シェリアは他にも用事があるみたいだったし、これくらいなら一人でできると言って引き受けたわけなのだけれど。笑えるほど不器用だ。なんかもう、全然上手くいかない。
それでもなんとか包帯を巻き終えたわたしに、バリーさんはお疲れ様です、と言って話を続ける。
どうやら今の会話はスルーしてくれるらしい。

「七年前からずっと、シェリアはラントの為に頑張ってくれていますからね……アスベル様は、肝心な時にいてくれない」

最後に零した言葉に、思わずバリーさんを見る。
包帯を片付けながら喋る彼は、だが確かな意志を持って会話を続けた。

「帰って来てくださった時は本当に嬉しかった。でも、やっぱり思ってしまうのですよ。騎士学校になんて行かなければアストン様は死ななかったんじゃないか。どうしてまた出て行ってしまわれたのか。アスベル様にとってラントとは、そんな程度なのかと」

そこまでを一気に喋って、彼は口を閉じる。ちらりと見たわたしに向けられた視線は、とても申し訳なさそうである。
多分、わたしが微妙な表情をしていたからだろう。詳しい事情を知らない部外者に聞かせる話ではなかったと思っているのかもしれない。部外者だからこそ話せるというのもあるかもしれないが、わたしには返せる言葉がない。
……一応、アスベルがまたラントを出て行ってしまった理由がヒューバートさんとのやり取りにあるとは、簡単に聞いているけれど。でもそんなこと、領民は知らない。本人が話したわけでもないのに、部外者がそれを説明したことで納得できないだろう。
だから何も返事をできずにいれば、バリーさんは申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません。愚痴になってしまいました」
「あ、いえ、気にしないでください。慰めスキルは無いけど、愚痴を聞くスキルならありますから」
「シオリ!」

早口に言うと、丁度その話題の人物であるアスベルがわたしの所へ走ってきた。その後にはパスカルとソフィ、マリクさんと、シェリア以外の全員がそろっている。
何かまた事件でもあったのだろうか。随分と焦っているらしい面々は、町中を走り回った後のように見えた。

「あ、アスベルにみんな。どうしたの?」
「シオリさん、私はこれで」
「あ、はい、ありがとうございました……」

アスベルに軽く会釈だけして離れたバリーさんに、アスベルも微妙な顔をした……バリーさんの不満を、彼自身知っているのかもしれない。
バリーさんが歩き去ったのを見てから、アスベルは本題に入った。

「シオリ、シェリアを見なかったか?」
「え?シェリア?」
「シェリアがさらわれたちゃったんだよ! 主犯の人は捕まえたんだけど、自分を刺しちゃったから聞けないの!」
「はぁっ!?」

聞けば、アスベル達がヒューバートさんの本国召喚命令を撤回してもらうためにストラタへ渡ろうとしているのを止めるため、副官のレイモンという人がシェリアを人質にしたらしい。
このタイミングでヒューバートがラントから帰ってしまったら、ラントは立ち行かない。だから本国召喚命令を撤回してほしいと、代わりにアスベルが向かおうとする。それはわかる。それでは困るストラタ側の人間が何かの行動に出るのもわかる。でも誘拐はわからない。
当然、その誘拐の犯人はヒューバートさんにあっさりとバレてしまったらしいけれど、持っていたナイフで自分を深く刺したらしく、そのまま意識を失ってしまった。そのせいでシェリアの居場所がわからなく、このままではシェリアの命が危ないらしい。
わたしは珍しく頭にカアァッと熱が上るのを感じて、アスベルの腕につかみかかるようにして迫った。

「見てないけど……ついてく。わたしもシェリアを迎えに行く!」