ラントの出口に落ちていた、シェリアの物だという押し花から大体方向に目星をつけて、そっちに向かって走っていく。
そうすれば、少し先の小屋で猪みたいな魔物に囲まれたシェリアの姿が見えた。
すかさず、走りながら術の詠唱を始める。
「シェリアー!」
「雷、其は猛き夢想の閃光、英雄を刻む、黒き刻印の光!」
今日はいつもよりスムーズに、更に威力増しな気がして、アスベル達が辿り着く前に魔物に向けて一気に術を放った。
「シェリアが欲しけりゃ、まずわたしを倒しなさい! クロスサンダー!」
魔物を打ち上げるようにして雷が破裂した後、打ち上げた魔物ごと空に浮いて一気に叩き落とした。
その際再び破裂した青い雷は、味方認識をしていない周りの魔物や兵をも巻き込んでくれる……まさしく一撃! である。
彼女の周りから魔物がいなくなったことにホッと胸をなで下ろして、わたしたちはシェリアに駆け寄った。
「ふー、間一髪! シオリも強くなったねぇ」
「シェリア、大丈夫?」
「何か変な事されてない?怪我してない?」
「うん……ありがとう、みんな……あ、ありが……」
パッパッとシェリアの体を軽く叩いて確認するが、確かに怪我は無いらしい。
無事だという事に安心すれば、シェリアは律儀にみんなに頭を下げて……そうして、黙ったままのアスベルにも向き合った時だった。
「どうして無茶な事をしたんだ!」
かつて、王城地下でわたしに対して怒鳴ったように、彼は声をあげた。
ああ、彼は、どんな時だって。相手が危険なことをしたなら、ちゃんと怒ってくれるのだ。
あの時と違うのは、つかみかからなかったとこだろうか。
でもそれだけでもシェリアは十分に体を震わせて、そして目をそらした。
「どうしてって……それは成り行きで……」
「成り行きで!? 俺達が、シオリが間に合わなかったら死んでいたかもしれないんだぞ!」
「私だって……好きで捕まったんじゃないわ! 人の気も知らないで、怒鳴らなくてもいいじゃない!」
「まあまあ二人とも、無事だったんだから良かったじゃないさ」
「「よくない!」」
口論になった二人を止めようとパスカルが慌てて間に入るも、綺麗に声を揃えて反論される。
こりゃだめだ、とマリクさんと三人で顔を見合わせて、とにかくどちらかが落ち着くのを待つことにした。
「どれだけ心配したと思ってるんだ!」
「それはこっちの台詞よ! そもそもアスベルが心配で様子を見に行ったらそこに……」
「大体、再会してからずっとよそよそしい態度で……」
二人とも結構意地っ張りみたいだから時間がかかるかも、と思ったけれど、案外早く落ち着きそうだ。
お互い、ただ相手を心配していたと叫んでいることに、気付いてきたのだろう。だんだんと勢いを無くして黙り込んだ二人にどこか安心すると、シェリアが吐き出すように声を出した。
「……アスベルが悪いんだから! 全部、アスベルが悪いんだから!」
震えた声が、明らかな涙を滲ませていた通り。顔を上げたシェリアは、ぼろぼろと涙を零していた。
いつだったか、最初にラントを訪れた際にもシェリアが泣いた事がある。その時と同じ涙だ。今度はそれが、ちゃんとアスベルに向かっているだけで、ずっと。ずっと変わらない、シェリアの気持ちがそこにある。
「いつだって勝手にいなくなって……どうして七年間一度も戻って来てくれなかったの! 待ってたのに……ずっと待ってたのに! 会いに行きたかった……でも迷惑なんじゃないかって思ったら……行けなくて……」
「……ごめん、俺……騎士になるまでは帰れない。そう思ってて……」
うなだれたアスベルに、シェリアはなんとか涙を止めようと目を拭う。
そんなにやったら痛いだろうに。優しく拭ってやりたい衝動にかられるが、ぐっと堪える。
その代わり、パスカルが二人をからかうように腕を頭の後ろで組んだ。
「いいねぇ幼なじみ」
「だな」
「からかわないで! アスベルみたいな鈍感な奴、どうでもいいんだから! アスベルなんかより、シオリの方がずっとずっと素敵なんだから!」
「え?わたし?」
突然の名指しに思わず照れちゃう、なんて返せば、アスベルから勢い良く顔を逸らしていたシェリアはまだ涙目のまま柔らかく笑う。
それが嬉しくてわたしも笑えば、アスベルも我慢出来ないとばかりに噴き出した。
「ぶっ……そうそうシェリアはこうでなくちゃ」
「こうって……な、な、な……」
「い〜んじゃないシェリア」
「肩の力を抜いてもいい頃だという事だな」
「そうだよシェリア。ほら」
ぱくぱくと口を開閉させる彼女の背中を、ポンと軽く押してやる。
再び視線を合わせた二人に、どことなく寂しさを感じたが……それは、気付かなかった事にした。
「良かったよ。シェリアが全然変わってなくて。それに……うまく言えないが……その……なんだ、無事で……良かったよ」
「……喧嘩、終わった?」
それまでずっと黙っていたソフィが、それだけを問い掛ける。
どうやら、ずっと。それこそ、ソフィが今の二人と合流してからずっと。アスベルとシェリアは喧嘩している最中だと思っていたらしい。確かに間違いじゃないなと小さく笑えば、同じ事を思ったらしいアスベルも優しく笑った。
「喧嘩……ああうん、終わった。な、シェリア」
「え? ……ええ、終わったわ」
「じゃあ……友達?」
「ああ」
「……ええ」
「じゃあ、友情の誓い」
ソフィがアスベルとシェリアの手を取って、それを重ねる。
必然的に手を合わせて見つめ合う姿勢になった二人を、ソフィは満足そうに見た。
……友情の誓いは、木に名前を彫って、その前で友情を誓うこと。その際に手を合わせる、とも聞いたけれど。これも簡略式の友情の誓い、ということでいいのだろうか。
叶うなら、わたしもそれに混ざりたかったなぁ、なんて思う。アスベルとシェリア、どちらに嫉妬しているのかはわからなかった。好きだなって、思う人に、好かれているらしいと思うだけで、結構満足だったので。
……満足だと言いつつ、友情の誓い、わたしもしたいなと思っている時点で、きっと満足なんてできていないのだろうけれど。
「いや〜青春だね〜」
「茶化すなパスカル。よし、それでは無事に解決した事を報告に帰るとするか」
「はい」