8.君に、おめでとう

遠く広がる綺麗な緑が、さっき聞いた嬉しい知らせで余計に綺麗に見える気がして思わず笑顔になる。
いつの間にか傍にいたアスベルさんも、どこか嬉しそうに横に立ったのがわかった

「いい景色だろ?」
「うん。いい景色。アスベルさんのおめでたい知らせで、更に綺麗に見えるよ」
「そ、そうか?」
「ほう、その言い方はまるでシオリがアスベルを口説いてるみたいだな」

今はそんなつもりなかったんだけど、ああ、そうか。景色を見て「君の方が綺麗だよ」とか「君がいるから綺麗なんだ」って言ったように聞こえたのか。
わたしは少し考えて、それも面白いと笑う。何より、戸惑った声をあげたアスベルさんがなんだか可愛かったから、ちょっとからかいたくなってしまった。

「んー、まぁ、アスベルさんだったら口説いてもいいですよ」
「なっ……!?」
「そうか。なら、うちのアスベルを幸せにしてやれよ?」
「わかりましたお父様!」
「シオリ! 教官まで! からかわないでください」

もう! と怒られてケラケラと笑う。
半分本気だったのは内緒だ。

「はっはっはっ……しかし、美しい国だろう? ウィンドルという国は」
「ウィンドル……そうですね、とても綺麗です」
「……けど、争いはなくなりません」

ここはウィンドルというのか、とこっそりと思いながら頷けば、アスベルさんはどこか悲しそうに目を伏せた。
そのことに、わたしだけじゃなくてマリクさんも不思議そうな顔をする。

「どうした突然」
「子どもの頃、この場所にとても大切な友達と来た事があります。その時友達の一人がこう言ったんです。「僕は争いのない世界にしたい」と」
「ほう……」
「その時の俺は夢ばかり見ている子どもで……自分にはそれを助けるだけの大きな力があると信じていました」
「子どもの頃って、みんなそういうものなんじゃないの?」

子どもの頃は、根拠の無い自信で満ち溢れてるものだ。
争いの無い世界、なんて、子どもだから強く願える。
大人になったらそれが不可能だと諦めてしまうから、叶える事など余計に出来なくなるものだから。

「でも、その直後のある出来事で、自分が本当に情けないくらい子どもだという現実に気付いたんだ」
「そしてお前は騎士団へ、か」
「はい。だからシオリ」
「うん?」
「シオリの記憶が戻るまで……ずっとは無理かもしれないけど、傍にいる間は絶対に守ってみせるから」

そう言ってわたしを見る目は見つめ返して、あれ、と思った。
誰と重ねているんだろう。
彼は誰かとわたしを重ねている。
その“誰か”を守るために、わたしを守ろうとしているような気がする。それはなんだか悲しく感じたが……でもそれで、彼が前に進めるなら、とも思ってしまうから。

「……そんなに気負わなくていいよ。ちょっと混乱しているだけだし。でも、そうだな。せっかくだし、ちゃんとわたしを守ってね」
「ああ!」

だからわたしは笑顔で、そう言った。