65.兄と、弟

「アスベル、ヒューバートからもらったの見せて」

港まであと少し、というところまで来た辺りで、ソフィがアスベルに向かってそう手を出した。
アスベルもすぐに彼女の言っているヒューバートさんから受け取ったお守りをポケットから取り出して渡すと、彼女は青い布地のそれをじっと眺める。
詳しい仕組みとか事情はわからないけれど、七年前に死んだと思われていたソフィ本人が、記憶を失ってまたみんなの前に姿を現した。つまり目の前にいるソフィは、かつてヒューバートさんとも友達だったソフィだ。だからこそ、何か色々と思う事でもあるのだろうか?

「弟くん、なんで御守りをくれたんだろうね?」
「お兄ちゃん大好き〜って事じゃないの?」
「そっか。あたしもお姉ちゃん大好きだもんね、そういう事か」
「パスカルお姉ちゃんいるんだ?」
「うん! 大好きな自慢のお姉ちゃん!」

大好きでたまらない、と言葉にしないでもわかるくらいの笑顔で言うパスカルはとても可愛い。
思わず「今度詳しく聞かせて」と彼女に抱き付いてしまうくらいだ。パスカルのお姉さんは逆に美人系かしらと考えていると、一連の会話を聞いていたらしいマリクさんが懐かしそうに目を細めた。

「アスベルの弟か……騎士学校に入ったばかりの頃、アスベルはよく弟の話をしていたな」

言い出したそれに、アスベルは慌ててそれを遮ろうとする。
顔が赤い。そうだよな、自分の昔話をされるって恥ずかしいよね。みんなは聞きたくなるものだけど。

「教官、何も今そんな昔の事を話さなくても」
「その話、是非聞いてみたいです」
「聞きたい」

ほら想像通り。シェリアとソフィが勢い良く食いつくものだから、絶対にダメだなんて言い出せない。
もうどうにでもなれとばかりに肩をすくめたアスベルを見て、マリクさんも話し始める。

「アスベルはストラタへ渡った弟の事を心配していた。寂しい思いをしていないか、いじめられたりしていないか……あいつは大人しいから心配だと何度も聞かされたな」
「弟思いなんだね」

なんだ、ならきっと、きっかけさえあればすぐに仲直りできそうだ。このお守りを渡す時点で、だいぶお兄ちゃんのこと気にしていたし。うんうん。仲良し兄弟、いい言葉だなあ。
そんな事を思いながら頬を緩めれば、アスベルは顔を真っ赤にしてみんなに背中を向ける。この兄弟、お互いに照れ屋なのかも。

「そういえば手紙を出した事もあったのではないか?」
「はい。でも返事は貰えませんでした」
「アスベルの気持ちはちゃんと届いてるわよ」
「そうだといいんだが……」

シェリアの言葉に曖昧に頷く。
しばらくじっと御守りを見ていたソフィはずぃっとそれを返した。それから祈るようにそれを見て、空を仰いだアスベルを見詰める。

「はい。これ返すね。ヒューバートのくれた大切な御守り……きっとアスベルを守ってくれる」
「ヒューバート……さて、港までもう少しだ。先を急ごう」