66.好きは、好き

「はい先生! ストラタってどんな国なんですか?」

船に乗ったところで、元気よくそう聞いてみる。だってわたし、ストラタと言われても全然知らない。どんな国なのかもわからなければ、何がおいしいのか、どんな人なのかも何も知らない。
別に知らなくなってストラタに行くことはできるけれど、どうせなら前知識があった方がいい。田舎者丸出しの態度をしてしまうのは、やっぱりちょっと恥ずかしいし。
だから素直に何も知りませんと言えば、マリクさんがそうだな、と説明してくれる。

「ストラタは水の大輝石、デュープルマルがある砂漠の国だ。輝術の研究が盛んで、専用の研究機関もあったはずだ」
「砂漠……なんか、暑そうですね」
「ああ、暑いぞ」
「……なんか、テンション下がったなぁ…………」

そっか、砂漠、かあ。
いや、砂漠なんて行ったことないけれど。とても暑いという知識は知っているし、こんな軽装で訪れる場所ではないことも知っている。
というか、みんないつもと同じ服装だけれど、問題ないのだろうか。日差し対策とか、日焼け対策とか、そういうの、あまりここでは意識されないことだったりして。
暑いの、純粋に好きじゃないんだよね……日本と違って湿度は高くなくて、もっとカラッとしてはいるんだろうけれど。どれくらい体感温度が変わるのかはわからないし、テンションがどうしても下がってしまう。

「ねぇねぇ、シオリは好きな人っていないの〜?」

だから隣にいたパスカルに突然そう聞かれて、素っ頓狂な声をあげてしまった。
聞いてきた本人はそんなの関係ないとばかりウキウキとした顔をしているけれど、なんでそんな質問になったんだ。ストラタの話を聞いたはずなのに。

「はあ?」
「いやね、どっちを応援すべきなのかなって」
「確かに、それはオレも悩んでいたところだ」
「マリクさんまで。なんですか突然」
「理由なんていいんだよ! それで? 好きな人はいるの? いないの?」

マリクさんまで参入してきた事に戸惑ってしまうが、なんだか凄い勢いで聞いてくるパスカルにとりあえず答えを考えることにする。
好きな人。好きな人、ねぇ。

「うーん……わたし、そういうの良くわかんないんだよね。愛と友情の線引きがわからないっていうか。敢えていうなら世界に恋してるっていうか」

みんな好きすぎて恋愛まで発展しないんだよねえと素直に言えば、パスカルはマリクさんと肩を寄せ合って何事が囁き始めた。
その内容は聞こえそうでいまいち聞こえない。

「どう思う、パスカル」
「これは完全に自覚ナシだね」
「だな」
「二人とも仲良しだよね。わたしより二人の話が聞きたいなぁ」

なんとなく居心地悪くて話を逸らそうとするが、二人はそれに呆れたように肩をすくめるだけで、再び話に戻ってしまった。
なんか仲間外れな気分だ。

「鈍感ってわけじゃあないんだね」
「自分にだけってやつか。これはアスベルも大変だな……」
「でもさ、シェリアもそうじゃない? どっちに落ち着くか知らないけど、どっちも鈍感って大変だよ〜?」
「もしかしたら大穴でソフィに行くかもしれないぞ?」
「え、そしたらあたしも貰ってもらわなきゃ!」
「ねぇなんの話? 置いてけぼりは良くな〜い」
「シオリはオレ達の中では誰が一番好きなんだ?」

やっと話に入れてもらえたが、未だに話題は変えてもらえてないらしい。
むしろわたしがため息をつきながら言葉を紡いだ。

「みんな好きだってば……ソフィは可愛いしずっと傍にいたいって思うし、シェリアはなんか見守ってほしいし、パスカルも一緒にいて楽しいし。マリクさんも一緒にいて落ち着くし、アスベルも…………アスベルも、たまに不安だけど一緒にいて安心するし、みんな好きだよ?」

これでいいでしょ、と言えばようやく満足したらしい。また何かを楽しそうに話す二人に、わたしに恋愛イベントがあっても意味無いよと叫びたくなった。

「アスベルが一歩リード、なのかな?」
「かもな」
「?」

どうせわたし、この世界の人間じゃないのに。